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四章 まるで幻想物語
204 惺 ◇ AKIRA 長い夜が明ける
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「劍…」
「ん?」
「ずっと、気になってた事、訊いても良いかな?」
「…うん」
「一番初めに、僕達が逢った時」
「うん」
「劍が部屋に来て〝惺に手紙を送ったのは、劍だ〟って言ったでしょう?」
「お前は…あの手紙を不審に思わなかったのか…?」
「不審ねえ…僕は、ただ受け取っただけですよ。ああ…でも、その…直接じゃなかったですけどね」
「直接でない、か」
「はい。僕はここに来る前まで、孤児院に入っていたんですよ」
「孤児院…」
「あの手紙は……俺が送った…」
「…うん」
「今まで、あまり気にしていなかったんだけれど、どうして劍は〝あの孤児院に僕が居た〟って知ってたの?」
「……夢で、お前のことを知ったんだ」
「夢?」
「うん。どうしてか分からないけれど『惺は、俺と対の人間なんだ』って…思ったんだ。本当に…その…勘みたいなものだったけど…」
「そっか…。たとえ、棕矢達が計画した再会だったとしても、やっぱり〝運命〟ですね」
「う、運命って…まあ、そう…なのかも、し、しれない…」
「ふふ」
「……」
「それから」
「…何?」
「君は、その夢の中の情景だけで、あの孤児院だって特定出来たみたいだけれど…んー…特定出来そうなもの…か。あ、古書室が出てきたんですか?」
「…いや」
「……?」
「俺も…赤ん坊の頃から五歳まで、同じ院に居たんだよ」
「え?! あ。院って…そ、そうだったんですね!」
皆との会話で孤児院の話は、度々出ていたけれど、まさか劍も同じ孤児院だったとは。
「ああ。あと…」
「ん?」
「今だから言えるけれど〝向こうの棕矢〟が教えてくれたんだ…あの孤児院で間違いない、って」
「ふふ。本当に、反対側の棕矢は、物知りですね」
「不思議な奴だよ」
「あはは…そうですね」
劍が、ふっと小さく笑って優しく言う。
「Dさん…」
「うん」
「…俺にとって、お母さんだったんだ」
「…うん。Dさん、良い方でしたよね」
「うん」
僕達は、軽く顔を見合わせると、二人で微笑んだ。
そろそろ、長い夜が明けます。
「ん?」
「ずっと、気になってた事、訊いても良いかな?」
「…うん」
「一番初めに、僕達が逢った時」
「うん」
「劍が部屋に来て〝惺に手紙を送ったのは、劍だ〟って言ったでしょう?」
「お前は…あの手紙を不審に思わなかったのか…?」
「不審ねえ…僕は、ただ受け取っただけですよ。ああ…でも、その…直接じゃなかったですけどね」
「直接でない、か」
「はい。僕はここに来る前まで、孤児院に入っていたんですよ」
「孤児院…」
「あの手紙は……俺が送った…」
「…うん」
「今まで、あまり気にしていなかったんだけれど、どうして劍は〝あの孤児院に僕が居た〟って知ってたの?」
「……夢で、お前のことを知ったんだ」
「夢?」
「うん。どうしてか分からないけれど『惺は、俺と対の人間なんだ』って…思ったんだ。本当に…その…勘みたいなものだったけど…」
「そっか…。たとえ、棕矢達が計画した再会だったとしても、やっぱり〝運命〟ですね」
「う、運命って…まあ、そう…なのかも、し、しれない…」
「ふふ」
「……」
「それから」
「…何?」
「君は、その夢の中の情景だけで、あの孤児院だって特定出来たみたいだけれど…んー…特定出来そうなもの…か。あ、古書室が出てきたんですか?」
「…いや」
「……?」
「俺も…赤ん坊の頃から五歳まで、同じ院に居たんだよ」
「え?! あ。院って…そ、そうだったんですね!」
皆との会話で孤児院の話は、度々出ていたけれど、まさか劍も同じ孤児院だったとは。
「ああ。あと…」
「ん?」
「今だから言えるけれど〝向こうの棕矢〟が教えてくれたんだ…あの孤児院で間違いない、って」
「ふふ。本当に、反対側の棕矢は、物知りですね」
「不思議な奴だよ」
「あはは…そうですね」
劍が、ふっと小さく笑って優しく言う。
「Dさん…」
「うん」
「…俺にとって、お母さんだったんだ」
「…うん。Dさん、良い方でしたよね」
「うん」
僕達は、軽く顔を見合わせると、二人で微笑んだ。
そろそろ、長い夜が明けます。
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