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二章 ハンタイガワ
163 恭 ◇ Kyoh 切っ掛け
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私達は惺君の所に戻ります。
「惺君!」
「あ、お帰りなさい」
「私もひとつ買うわ。お勘定するわね」
「あ、僕が…」
「良いわよ。お兄様から貰った、お財布出して貰える?」
「えっと、あ。はい」
「あと、お洋服」
「…はい。お、お願いします」
お財布と、彼の選んだ服を受け取り、先程の店員さんにお会計をお願いしました。
品物を包みながら「袋は分けますか?」と訊かれたので「ううん、一緒で良いわよ」と答えると、彼女の目の色が変わった気が…
「何なにー? あの子、彼氏?」
「…え? えっ?! あ! ち、違います! 彼は家の同居人さんよ!」
慌てて言うと、彼女はまた猫ちゃんの口で「えー、なあんだ」って言うの。笑って返してくれたから良かったわ。でも、あれ? 何だか頬が、ほんのり温かいです…。
品物の入った袋を受け取る頃には、なぜか無性に恥ずかしくて、挨拶程度の言葉だけ交わし早足で出口に向かいます。きっと惺君、「何事だ」って驚いてたわよね。ごめんなさい。
「ありがとうございましたー」という声を背中で聞きながら、お店を出る。
あと「また〝二人で〟来てねー」って声も聞こえた気がしたけれど、気のせいよね。気のせい。
*
「ふう」
「大丈夫ですか?」
歩きながら溜息を吐いた私に、惺君が訊く。
「…うーん」
「…?」
ふと隣を見たら、少し落ち着いていたのに、また妙に恥ずかしくなってきて…
……って、今更、何意識してるのよ! 私ったら!
ひとり心の中で騒いでいると横から笑い混じりの声がしました。
「ちょっと…ほ、本当、どうしたんですか?」
私の頬の温度が、また少し上がった。自然と俯き加減になって歩く速度も上がる。
……朝から私、変だったんだわ。
今、恥ずかしいような、困ったような、自分に呆れたような…ごちゃ混ぜの気分です。
改めて考えて、もしも理由をこじつけるとしたら…。
少し前の〝奇妙なアルバムの件〟が私の中でまだ引っ掛かっているのかもしれません。ひょんな発見から生まれた、彼と私の間にできた僅かな変化が気になっていたのかもしれない。だから、無意識に〝元に戻す切っ掛け〟が欲しくて、あんな風にお誘いしちゃったのかな、って。
悶々と考える私の後ろから、惺君は、暫くそのままの距離を保って歩いてくれていました。
…そろそろ行きも通った漁港が見えてくる。今は人が居ないみたい。
「惺君…」
私は小さく、でも辛うじて彼に届くくらいの声で呼んでみました。
「はい?」
横目で窺うと、歩を速め近付いて来てくれる。
……このままモヤモヤしているのも、ひとりで照れているのも気まずいから、さっきのお店での事を話してみようかな、って思ったの。一回、深呼吸。
「あ、あのね…」
「はい」
「さっき…」
「惺君!」
「あ、お帰りなさい」
「私もひとつ買うわ。お勘定するわね」
「あ、僕が…」
「良いわよ。お兄様から貰った、お財布出して貰える?」
「えっと、あ。はい」
「あと、お洋服」
「…はい。お、お願いします」
お財布と、彼の選んだ服を受け取り、先程の店員さんにお会計をお願いしました。
品物を包みながら「袋は分けますか?」と訊かれたので「ううん、一緒で良いわよ」と答えると、彼女の目の色が変わった気が…
「何なにー? あの子、彼氏?」
「…え? えっ?! あ! ち、違います! 彼は家の同居人さんよ!」
慌てて言うと、彼女はまた猫ちゃんの口で「えー、なあんだ」って言うの。笑って返してくれたから良かったわ。でも、あれ? 何だか頬が、ほんのり温かいです…。
品物の入った袋を受け取る頃には、なぜか無性に恥ずかしくて、挨拶程度の言葉だけ交わし早足で出口に向かいます。きっと惺君、「何事だ」って驚いてたわよね。ごめんなさい。
「ありがとうございましたー」という声を背中で聞きながら、お店を出る。
あと「また〝二人で〟来てねー」って声も聞こえた気がしたけれど、気のせいよね。気のせい。
*
「ふう」
「大丈夫ですか?」
歩きながら溜息を吐いた私に、惺君が訊く。
「…うーん」
「…?」
ふと隣を見たら、少し落ち着いていたのに、また妙に恥ずかしくなってきて…
……って、今更、何意識してるのよ! 私ったら!
ひとり心の中で騒いでいると横から笑い混じりの声がしました。
「ちょっと…ほ、本当、どうしたんですか?」
私の頬の温度が、また少し上がった。自然と俯き加減になって歩く速度も上がる。
……朝から私、変だったんだわ。
今、恥ずかしいような、困ったような、自分に呆れたような…ごちゃ混ぜの気分です。
改めて考えて、もしも理由をこじつけるとしたら…。
少し前の〝奇妙なアルバムの件〟が私の中でまだ引っ掛かっているのかもしれません。ひょんな発見から生まれた、彼と私の間にできた僅かな変化が気になっていたのかもしれない。だから、無意識に〝元に戻す切っ掛け〟が欲しくて、あんな風にお誘いしちゃったのかな、って。
悶々と考える私の後ろから、惺君は、暫くそのままの距離を保って歩いてくれていました。
…そろそろ行きも通った漁港が見えてくる。今は人が居ないみたい。
「惺君…」
私は小さく、でも辛うじて彼に届くくらいの声で呼んでみました。
「はい?」
横目で窺うと、歩を速め近付いて来てくれる。
……このままモヤモヤしているのも、ひとりで照れているのも気まずいから、さっきのお店での事を話してみようかな、って思ったの。一回、深呼吸。
「あ、あのね…」
「はい」
「さっき…」
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