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二章 ハンタイガワ
148 惺 ◇ AKIRA 僕達が最初に出逢ったのは
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数分前に「待ってて!」と言った恭さんが本を手に戻ってきた。
写真って言ってたから…きっと、あれはアルバムか何かだろう。
僕の隣に座った彼女が、いつもの表情に戻っていて、少し安心する。
完全に自業自得だが、彼女のあんな表情を殆ど見たこと無かったので、焦って取り乱してしまった。
緊張が解けきっていないこの空気を何とか切り替えようと僕は椅子に座り直し、ちらっとこちらに視線を向けた彼女に微笑む。と案の定、恭さんが僕等の間に置かれた本に手を伸ばした。彼女の手が、ゆっくりと表紙を開く。
最初の頁。一枚目の写真。
栗色の髪の男の子が、緊張した面持ちでこちらを見ていた。大体、十歳くらいだろうか? あどけなさがあるものの整った顔立ちと、瞳の色が棕矢と同じだった…右目が碧で、左目が金。
……これ、棕矢か。
「へえ…あいつ、こんなに可愛かったんだ」
今の雰囲気との差に、ちょっと新鮮味を感じて、にやにやしてしまう。恭さんを見ると、嬉しそうな顔。
「でしょ! お兄様、すっごく優しかったわよ。毎日、本を読んでくれたり…お祖父様達が出掛けていると、一緒に留守番してくれたり…」
まるで花が咲いたような満面の笑みで、指折り理由を説明する。
そして、不意に「あ! 勿論、今だって、すっごく すっごく優しいお兄様です」なんて、赤くなって補足するものだから、ますます、にやにやしてしまう。
「あははっ。知ってますよ」
それから後の四頁も、棕矢の写真だった。後ろの写真ほど背が高くなったり顔付きも変わっていたり…きっと年齢順になってるんだ。
「あ!!」
「えっ?」
ある写真に、僕は思わず大声を出してしまった。
「ど、どうしたの?」
驚く彼女の声が右から左に抜けてゆく。
「だって…」
五枚目の写真。
…だって。〝僕の記憶の中の棕矢〟に限り無く似た写真だったから。
優雅に読書をする、綺麗な横顔を写した写真が。
……棕矢と初めて逢ったのって、いつだったかな。
館に来た時も、幼い頃の記憶から導き出した棕矢という存在。記憶と思考が物凄い速さで過去を探り、脳内を駆け巡る。
そうだ。僕達が最初に出逢ったのは……ルナの大木の下だった。
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完全に自業自得だが、彼女のあんな表情を殆ど見たこと無かったので、焦って取り乱してしまった。
緊張が解けきっていないこの空気を何とか切り替えようと僕は椅子に座り直し、ちらっとこちらに視線を向けた彼女に微笑む。と案の定、恭さんが僕等の間に置かれた本に手を伸ばした。彼女の手が、ゆっくりと表紙を開く。
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栗色の髪の男の子が、緊張した面持ちでこちらを見ていた。大体、十歳くらいだろうか? あどけなさがあるものの整った顔立ちと、瞳の色が棕矢と同じだった…右目が碧で、左目が金。
……これ、棕矢か。
「へえ…あいつ、こんなに可愛かったんだ」
今の雰囲気との差に、ちょっと新鮮味を感じて、にやにやしてしまう。恭さんを見ると、嬉しそうな顔。
「でしょ! お兄様、すっごく優しかったわよ。毎日、本を読んでくれたり…お祖父様達が出掛けていると、一緒に留守番してくれたり…」
まるで花が咲いたような満面の笑みで、指折り理由を説明する。
そして、不意に「あ! 勿論、今だって、すっごく すっごく優しいお兄様です」なんて、赤くなって補足するものだから、ますます、にやにやしてしまう。
「あははっ。知ってますよ」
それから後の四頁も、棕矢の写真だった。後ろの写真ほど背が高くなったり顔付きも変わっていたり…きっと年齢順になってるんだ。
「あ!!」
「えっ?」
ある写真に、僕は思わず大声を出してしまった。
「ど、どうしたの?」
驚く彼女の声が右から左に抜けてゆく。
「だって…」
五枚目の写真。
…だって。〝僕の記憶の中の棕矢〟に限り無く似た写真だったから。
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……棕矢と初めて逢ったのって、いつだったかな。
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そうだ。僕達が最初に出逢ったのは……ルナの大木の下だった。
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