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二章 ハンタイガワ
146 惺 ◇ AKIRA 疑問
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XX27年 11月
ある日、僕は恭さんと庭仕事をしていた。
園芸とか庭弄りなんて専門外だから、僕は手伝う程度で、恭さんに言われた事だけをしながら、水撒きをしたり、気になったハーブについて教えて貰ったりしていた。ちなみに今、棕矢と劍は用事があるとか言って、それぞれ出掛けている。
*
暫くして、作業も落ち着いてくると、流石に会話が途切れてしまった。普段、彼女と二人きりになる事なんて、殆ど無いから尚更だった。
僕等は使ったシャベルやホースを無言で片付けていた。
……あ。そうだ。
「あの、恭さん?」
「うん?」
「いや、そう言えば…棕矢が以前、お祖母様のご趣味でハーブを育てていた、とか言ってませんでしたか?」
…そう。少し前に「どうして、この店のメニューは、こんなにもハーブ尽くしなんだよ」って僕が棕矢に訊いたんだ。そしたら「お祖母様の趣味を継いだようなもんさ」なんて澄ました顔で返事をされた記憶がある。
恭さんは、近くに植わった花にそっと、白くしなやかな指を添えると「ええ、そうよ」と少し誇らしげに頷いた。
「お祖母様と、お祖父様って…どんな方だったんですか?」
恭さんは風に吹かれた綺麗な髪を指で掬って耳に掛けながら、真っ青な空を見上げ、目を細める。
「そうねえ…今思うと、芯が強くて優し過ぎるくらいのおじいちゃん、おばあちゃん…かしら」
こちらに向き直った彼女が綺麗に微笑んだ。
僕の中に微笑ましさと共に、無粋ながらも「もっと詳しく知りたい」という衝動が湧き起こる。
「元々、お祖父様とお祖母様が、このお店やってたんですよね?」
「ええ。だから…私達の大切なお店よ」
僕は、庭から店内を見る。窓際には見るからに柔らかそうな長椅子が置かれ、周りには使い込まれた丸い机と丸い椅子が並んでいて…所々に置かれた、さりげ無い小物も洒落ている。バランスがとれ、洗練されている感じがする。前の店主は相当、センスが良かったのかもしれない。
……ん?
その流れで、ふと浮かんだ質問がひとつ。
「え、でも、どうしてお祖父様方の次…棕矢が店主になったんですか? ご両親が継がれるのが自然じゃ…」
そうだ。お祖父様とお祖母様が亡くなられている事は、ここに来たばかりの頃、棕矢から聞いていた。が、この館には兄妹の親らしき人物が見当たらない。同居していないだけかもしれないが、今まで話題にも上らず、今更ながら不思議だと思ったんだ。
……あれ? 恭さんの反応が無い?
再び顔を、彼女の方に向けた時「しまった」と深く後悔した。
つい先程までの穏やかな微笑みは消え、代わりに少女は複雑な表情をしていたのだ。…少し俯いた碧と金の瞳に濃い影が差している。
「あ! いや、すみません。言い辛いなら良いですよ。ふと思っただけなので… 」
慌てて、苦し紛れに付け足し、気付かれない程度に自嘲する。
……軽々しく他人の家庭の事を訊くんじゃなかった。
きっと彼女の触れてはいけない部分に触れてしまったんだ…。
恭さんが顔を上げる。
瞳はまだ少し哀しそうに見えるが、いつも通りの優しい表情に戻っていた。
……やっぱり、まずかったのかな。
困惑する僕に彼女は「大丈夫よ」と微笑むと、こう続けた。
「写真、見る?」
ある日、僕は恭さんと庭仕事をしていた。
園芸とか庭弄りなんて専門外だから、僕は手伝う程度で、恭さんに言われた事だけをしながら、水撒きをしたり、気になったハーブについて教えて貰ったりしていた。ちなみに今、棕矢と劍は用事があるとか言って、それぞれ出掛けている。
*
暫くして、作業も落ち着いてくると、流石に会話が途切れてしまった。普段、彼女と二人きりになる事なんて、殆ど無いから尚更だった。
僕等は使ったシャベルやホースを無言で片付けていた。
……あ。そうだ。
「あの、恭さん?」
「うん?」
「いや、そう言えば…棕矢が以前、お祖母様のご趣味でハーブを育てていた、とか言ってませんでしたか?」
…そう。少し前に「どうして、この店のメニューは、こんなにもハーブ尽くしなんだよ」って僕が棕矢に訊いたんだ。そしたら「お祖母様の趣味を継いだようなもんさ」なんて澄ました顔で返事をされた記憶がある。
恭さんは、近くに植わった花にそっと、白くしなやかな指を添えると「ええ、そうよ」と少し誇らしげに頷いた。
「お祖母様と、お祖父様って…どんな方だったんですか?」
恭さんは風に吹かれた綺麗な髪を指で掬って耳に掛けながら、真っ青な空を見上げ、目を細める。
「そうねえ…今思うと、芯が強くて優し過ぎるくらいのおじいちゃん、おばあちゃん…かしら」
こちらに向き直った彼女が綺麗に微笑んだ。
僕の中に微笑ましさと共に、無粋ながらも「もっと詳しく知りたい」という衝動が湧き起こる。
「元々、お祖父様とお祖母様が、このお店やってたんですよね?」
「ええ。だから…私達の大切なお店よ」
僕は、庭から店内を見る。窓際には見るからに柔らかそうな長椅子が置かれ、周りには使い込まれた丸い机と丸い椅子が並んでいて…所々に置かれた、さりげ無い小物も洒落ている。バランスがとれ、洗練されている感じがする。前の店主は相当、センスが良かったのかもしれない。
……ん?
その流れで、ふと浮かんだ質問がひとつ。
「え、でも、どうしてお祖父様方の次…棕矢が店主になったんですか? ご両親が継がれるのが自然じゃ…」
そうだ。お祖父様とお祖母様が亡くなられている事は、ここに来たばかりの頃、棕矢から聞いていた。が、この館には兄妹の親らしき人物が見当たらない。同居していないだけかもしれないが、今まで話題にも上らず、今更ながら不思議だと思ったんだ。
……あれ? 恭さんの反応が無い?
再び顔を、彼女の方に向けた時「しまった」と深く後悔した。
つい先程までの穏やかな微笑みは消え、代わりに少女は複雑な表情をしていたのだ。…少し俯いた碧と金の瞳に濃い影が差している。
「あ! いや、すみません。言い辛いなら良いですよ。ふと思っただけなので… 」
慌てて、苦し紛れに付け足し、気付かれない程度に自嘲する。
……軽々しく他人の家庭の事を訊くんじゃなかった。
きっと彼女の触れてはいけない部分に触れてしまったんだ…。
恭さんが顔を上げる。
瞳はまだ少し哀しそうに見えるが、いつも通りの優しい表情に戻っていた。
……やっぱり、まずかったのかな。
困惑する僕に彼女は「大丈夫よ」と微笑むと、こう続けた。
「写真、見る?」
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