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二章 ハンタイガワ
141 劍 ◆ AKIRA 黒い鉱物
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あの日。棕矢…いや、裏の棕矢は、黒い鉱物を残していった。
去年の十月か十一月頃から机の引き出しに入れっぱなしになっていた〝鉱物〟を久々に引っ張り出す。別に何の意味もなく、ただそんな事もあったなあ、と思い出しただけだ。
「結局これ…何なんだよ」
手に取って眺めながら、俺は途方に暮れていた。…が、頭にはひとつの考えがあった。
〝こちらの棕矢〟が鉱物に、やたら詳しいという事。
裏の棕矢については分からないが、こちら側の棕矢に訊けば、ほぼ確実に「この鉱物の正体も判るだろう」と。
棕矢の仕事は鉱物専門だし、元々この家自体そういう名家らしいしな…
けれど、ひとつ問題があった。俺の変な捻くれた自尊心が邪魔をして、すぐ訊く気にはなれないのだ。そして気付いたら、もう三ヶ月以上も放置していた。
ふと思い立った。
……あ、そうだ。恭姉に頼んで、図鑑見せて貰おうか。
なぜだか、彼女になら素直になれる気がして…早速、俺は恭姉の部屋に向かった。
*
扉をノックする。
「はーい」
可愛らしい声が、返ってくる。
「恭姉、俺」
「あら、どうぞ」
部屋に入ると、彼女はまた本を読んでいたらしい。今日の本は…ハーブの育て方、か。
「どうしたの?」と、恭姉が本を閉じる。
「いや、その…」
「ん?」
一呼吸。
「図鑑…」
「え?」
「恭姉、図鑑貸して」
目を丸くする彼女は、可笑しそうに笑う。
「もう、急にどうしたのよ」
う…。
相変わらず、いつも恭姉の笑みには弱い…どうしても、照れ臭くなってしまう。
俺は無言で、ポケットに入れていた鉱物を出す。それを手に乗せ、彼女の前に突き出した。手の上の赤黒い鉱物を、じっと見詰める恭姉。
暫く凝視した後に「貸して?」と手に取る。
「これ…」
赤鉄鉱
HEMATITEね。
「これ…HEMATITEね」
「判るのか?!」
……ヘマタイト
名前を聞いた事くらいはある。それに健康的にも良い効果が、とか謳い文句を付け、街の宝石店か何かが広告を貼り出していたのを思い出す。
「ちょっと、そんな大袈裟な」
びっくりして、こっちを見た彼女は、今度は「うふふっ」と楽しそうに笑う。
ぱっと変わった表情になぜか、不意に赤くなる俺。
……そ、そうだよな。兄妹で趣味は似るよな。
よく、二人で恋人みたいに、くっ付いて本広げてたし…
湧き上がる嫉妬心と、捻くれ自尊心を何とか抑え込み…俺は言う。
去年の十月か十一月頃から机の引き出しに入れっぱなしになっていた〝鉱物〟を久々に引っ張り出す。別に何の意味もなく、ただそんな事もあったなあ、と思い出しただけだ。
「結局これ…何なんだよ」
手に取って眺めながら、俺は途方に暮れていた。…が、頭にはひとつの考えがあった。
〝こちらの棕矢〟が鉱物に、やたら詳しいという事。
裏の棕矢については分からないが、こちら側の棕矢に訊けば、ほぼ確実に「この鉱物の正体も判るだろう」と。
棕矢の仕事は鉱物専門だし、元々この家自体そういう名家らしいしな…
けれど、ひとつ問題があった。俺の変な捻くれた自尊心が邪魔をして、すぐ訊く気にはなれないのだ。そして気付いたら、もう三ヶ月以上も放置していた。
ふと思い立った。
……あ、そうだ。恭姉に頼んで、図鑑見せて貰おうか。
なぜだか、彼女になら素直になれる気がして…早速、俺は恭姉の部屋に向かった。
*
扉をノックする。
「はーい」
可愛らしい声が、返ってくる。
「恭姉、俺」
「あら、どうぞ」
部屋に入ると、彼女はまた本を読んでいたらしい。今日の本は…ハーブの育て方、か。
「どうしたの?」と、恭姉が本を閉じる。
「いや、その…」
「ん?」
一呼吸。
「図鑑…」
「え?」
「恭姉、図鑑貸して」
目を丸くする彼女は、可笑しそうに笑う。
「もう、急にどうしたのよ」
う…。
相変わらず、いつも恭姉の笑みには弱い…どうしても、照れ臭くなってしまう。
俺は無言で、ポケットに入れていた鉱物を出す。それを手に乗せ、彼女の前に突き出した。手の上の赤黒い鉱物を、じっと見詰める恭姉。
暫く凝視した後に「貸して?」と手に取る。
「これ…」
赤鉄鉱
HEMATITEね。
「これ…HEMATITEね」
「判るのか?!」
……ヘマタイト
名前を聞いた事くらいはある。それに健康的にも良い効果が、とか謳い文句を付け、街の宝石店か何かが広告を貼り出していたのを思い出す。
「ちょっと、そんな大袈裟な」
びっくりして、こっちを見た彼女は、今度は「うふふっ」と楽しそうに笑う。
ぱっと変わった表情になぜか、不意に赤くなる俺。
……そ、そうだよな。兄妹で趣味は似るよな。
よく、二人で恋人みたいに、くっ付いて本広げてたし…
湧き上がる嫉妬心と、捻くれ自尊心を何とか抑え込み…俺は言う。
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