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二章 ハンタイガワ
139 惺 ◇ AKIRA サプライズ
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「いらっしゃいませ、お客様」
可愛らしい声と共に、恭さんが現れた。棕矢が手招きするので、彼女もカウンター席に腰掛けると、彼女にはホット・ココアが出された。これで、いつも通り。皆が揃った。
…皿も空になりつつある頃。デザートの準備をしていた棕矢に訊いてみた。
「あの玄関だけど…」
「ん?」
「お前の仕事の…技術? ってやつか?」
僕は、屋根裏部屋で聞いた、代々続く〝職〟と、彼のお祖父様の話を思い出していた。
『街では、俺等を含め、もうあと数人しか残っていないような貴重な仕事なんだ。工匠の仕事は、何代にも渡って、細く長く繋いできたんだ』と彼は言っていた。
それから『この店は元々、お祖父様とお祖母様が営んでいた』と…
「おい…惺?」
「ん? あ、ごめん棕矢」
色々と思い返していて、気付かなかった。棕矢が笑う。
「さっきの質問の答え。そうだよ。ははっ、訊いておいて、全く」
「悪い…。で、その〝工匠の術〟とやらで、営業時間内は、こうなってる…と」
「ああ」
「そんな、お前も軽く言うよなあ」
そこでふと思った。
「あれ? でも僕が、初めてここに来た時はホールのままだったよな?」
「ああ、あの日は休みにしたんだ」
「そうか…ありがとう」
細やかな心遣いに、自然と笑みが零れる。
僕等の周りは、優しく、温かな空気で満たされていて…皆がそれぞれ、朗らかな表情をしていた。
*
甘味を味わった後、少しゆっくりとして…兄妹が片付けを始めた頃。
手伝おうとした僕等に「お客様は何もしなくて良いのよ」と言った恭さんが、急にくすくすと笑い出した。顔を見合わせた、僕と劍の方を見る。そして突然…
「うふふっ。どうだった?」
「はい?」
一瞬、頭上に疑問符が浮かぶ。
「ほら! 奇跡体験!」
改めて言われて、思い出す。
……ああ。もとは、それでしたね。
彼女の期待に輝く瞳に、僕等は
「ありがとう。ほんと、奇跡みたいな、サプライズでしたよ」
「うん…面白くは…あった」
そう返した。
可愛らしい声と共に、恭さんが現れた。棕矢が手招きするので、彼女もカウンター席に腰掛けると、彼女にはホット・ココアが出された。これで、いつも通り。皆が揃った。
…皿も空になりつつある頃。デザートの準備をしていた棕矢に訊いてみた。
「あの玄関だけど…」
「ん?」
「お前の仕事の…技術? ってやつか?」
僕は、屋根裏部屋で聞いた、代々続く〝職〟と、彼のお祖父様の話を思い出していた。
『街では、俺等を含め、もうあと数人しか残っていないような貴重な仕事なんだ。工匠の仕事は、何代にも渡って、細く長く繋いできたんだ』と彼は言っていた。
それから『この店は元々、お祖父様とお祖母様が営んでいた』と…
「おい…惺?」
「ん? あ、ごめん棕矢」
色々と思い返していて、気付かなかった。棕矢が笑う。
「さっきの質問の答え。そうだよ。ははっ、訊いておいて、全く」
「悪い…。で、その〝工匠の術〟とやらで、営業時間内は、こうなってる…と」
「ああ」
「そんな、お前も軽く言うよなあ」
そこでふと思った。
「あれ? でも僕が、初めてここに来た時はホールのままだったよな?」
「ああ、あの日は休みにしたんだ」
「そうか…ありがとう」
細やかな心遣いに、自然と笑みが零れる。
僕等の周りは、優しく、温かな空気で満たされていて…皆がそれぞれ、朗らかな表情をしていた。
*
甘味を味わった後、少しゆっくりとして…兄妹が片付けを始めた頃。
手伝おうとした僕等に「お客様は何もしなくて良いのよ」と言った恭さんが、急にくすくすと笑い出した。顔を見合わせた、僕と劍の方を見る。そして突然…
「うふふっ。どうだった?」
「はい?」
一瞬、頭上に疑問符が浮かぶ。
「ほら! 奇跡体験!」
改めて言われて、思い出す。
……ああ。もとは、それでしたね。
彼女の期待に輝く瞳に、僕等は
「ありがとう。ほんと、奇跡みたいな、サプライズでしたよ」
「うん…面白くは…あった」
そう返した。
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