138 / 211
二章 ハンタイガワ
137 劍 ◆ AKIRA 奇跡体験?
しおりを挟む
XX27年 2月
ある朝。
「そうだ!」
「ん?」
「アキラ君たちって、夜〝お店〟に来た事、無かったわよね?」
唐突に、恭姉がそんな事を言い出した。
「うん…」
「そうですね」
言われてみれば、そうか。確かに、五歳から十六歳の今に至るまで、一度も営業時間内の店には入った事がない。いつも、兄妹の邪魔をしない様に部屋に籠っているのが当たり前だったんだ。
「じゃあ、奇跡体験してみない?」
少女が、目を輝かせている…でも口調は、可笑しいくらい、真剣に。
……意味が判らなかった。
「は?」
ようやく俺は反応をする。近くで本を読んでいた惺は、不思議そうな顔と、好奇心が入り混じった顔をしていた。
と、棕矢が「それほどのもんじゃないさ」と苦笑いする。
「そう?」
恭姉は、納得がいかない様だ。
「それで。どう? 奇跡体験」
普段抜かりない少女の、時々突発的に作動する…天然スイッチ全開だった。
……ど、どうって。
結局、少女に気圧され、曖昧に了承したのだった。
*
……仕方ないなあ。
ほぼ強行されたに等しい〝奇跡体験〟とやらに付き合う羽目となった。
そうは言っても、惺の方は、まんざらでもないらしく「ま、面白そうだし良いんじゃない?」とか言っている。
今朝、棕矢に営業時間内に、絶対、門の外から入って来いよ」と念を押された。
その流れで、なぜか、惺と二人だけで買い出しに行ってこいと言われたんだ。断ろうとしても、あの兄妹に丸め込まれた…本当に、息がぴったりだから、しぶとい…。
「何で、夜まで外に居なきゃならない上に〝ついでに色々と足りない物あるから、買って来て〟だ! あの野郎」
あのしぶとさは、俺達に買い出しをさせる為で、恭姉にも一芝居、打つように仕組んだんじゃないのか? なんて思ってしまう。
「まあまあ。劍君、口が悪いですよ。文句言わない」
横で、やけに笑顔の惺が言う。
……お前になだめられる筋合いは無い。
*
「さてと。次は…あ。そこ、曲がった先か」
律儀な惺に引っ張って行かれるようにして、買い物は、どんどんと進んでいく。
途中、棕矢に渡されたメモを見ながら、惺がふと思い出したみたいに言った。
「二人きりで買い出しなんて、初めてじゃないか?」
……そう言われると、そうだな。
俺が無言でいると、惺はひとりで「そうかぁ。僕が館に来てから、もう一年以上経つのか」と、空を見上げながら呟いた。と思ったら、突然こちらを向いた。
「それも〝劍のおかげ〟だよ」
いつもの爽やかな笑い方じゃなく…妙に女みたいな顔して、にっこりとした。
……名前、呼び捨て。おかげって何だ。あと、そんな顔するな! ぞわぞわする。
何とも言い難い状況に目を逸らす。
惺が「ちょっと…何で目、逸らすんですか」と半笑いで言っているのが聞こえる。
知らない。照れ臭いのがこの面倒な奴に気付かれない事を祈りながら、次の店に入って行った。
ちなみに。この店を出るまで、俺は無言を貫いた。
店員がちらちらと俺達を見ているのが気になったが、何とかなった。
*
頼まれた、買い出しメモと地図を交互に睨みながら、あと二軒ほど回り、やっと買い物が終わった。その頃には、空が綺麗な橙色と紺色のグラデーションに変わっていた。
二人で大きな荷物を抱えて歩く。惺は見掛けによらず力持ちらしく、軽々と大量の荷物を抱え、涼しい顔で歩いている。
そんな彼の姿に、俺は謎の敗北感を感じながら余計に疲れていく。
「はあ…」と溜息が出た。
ある朝。
「そうだ!」
「ん?」
「アキラ君たちって、夜〝お店〟に来た事、無かったわよね?」
唐突に、恭姉がそんな事を言い出した。
「うん…」
「そうですね」
言われてみれば、そうか。確かに、五歳から十六歳の今に至るまで、一度も営業時間内の店には入った事がない。いつも、兄妹の邪魔をしない様に部屋に籠っているのが当たり前だったんだ。
「じゃあ、奇跡体験してみない?」
少女が、目を輝かせている…でも口調は、可笑しいくらい、真剣に。
……意味が判らなかった。
「は?」
ようやく俺は反応をする。近くで本を読んでいた惺は、不思議そうな顔と、好奇心が入り混じった顔をしていた。
と、棕矢が「それほどのもんじゃないさ」と苦笑いする。
「そう?」
恭姉は、納得がいかない様だ。
「それで。どう? 奇跡体験」
普段抜かりない少女の、時々突発的に作動する…天然スイッチ全開だった。
……ど、どうって。
結局、少女に気圧され、曖昧に了承したのだった。
*
……仕方ないなあ。
ほぼ強行されたに等しい〝奇跡体験〟とやらに付き合う羽目となった。
そうは言っても、惺の方は、まんざらでもないらしく「ま、面白そうだし良いんじゃない?」とか言っている。
今朝、棕矢に営業時間内に、絶対、門の外から入って来いよ」と念を押された。
その流れで、なぜか、惺と二人だけで買い出しに行ってこいと言われたんだ。断ろうとしても、あの兄妹に丸め込まれた…本当に、息がぴったりだから、しぶとい…。
「何で、夜まで外に居なきゃならない上に〝ついでに色々と足りない物あるから、買って来て〟だ! あの野郎」
あのしぶとさは、俺達に買い出しをさせる為で、恭姉にも一芝居、打つように仕組んだんじゃないのか? なんて思ってしまう。
「まあまあ。劍君、口が悪いですよ。文句言わない」
横で、やけに笑顔の惺が言う。
……お前になだめられる筋合いは無い。
*
「さてと。次は…あ。そこ、曲がった先か」
律儀な惺に引っ張って行かれるようにして、買い物は、どんどんと進んでいく。
途中、棕矢に渡されたメモを見ながら、惺がふと思い出したみたいに言った。
「二人きりで買い出しなんて、初めてじゃないか?」
……そう言われると、そうだな。
俺が無言でいると、惺はひとりで「そうかぁ。僕が館に来てから、もう一年以上経つのか」と、空を見上げながら呟いた。と思ったら、突然こちらを向いた。
「それも〝劍のおかげ〟だよ」
いつもの爽やかな笑い方じゃなく…妙に女みたいな顔して、にっこりとした。
……名前、呼び捨て。おかげって何だ。あと、そんな顔するな! ぞわぞわする。
何とも言い難い状況に目を逸らす。
惺が「ちょっと…何で目、逸らすんですか」と半笑いで言っているのが聞こえる。
知らない。照れ臭いのがこの面倒な奴に気付かれない事を祈りながら、次の店に入って行った。
ちなみに。この店を出るまで、俺は無言を貫いた。
店員がちらちらと俺達を見ているのが気になったが、何とかなった。
*
頼まれた、買い出しメモと地図を交互に睨みながら、あと二軒ほど回り、やっと買い物が終わった。その頃には、空が綺麗な橙色と紺色のグラデーションに変わっていた。
二人で大きな荷物を抱えて歩く。惺は見掛けによらず力持ちらしく、軽々と大量の荷物を抱え、涼しい顔で歩いている。
そんな彼の姿に、俺は謎の敗北感を感じながら余計に疲れていく。
「はあ…」と溜息が出た。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~
深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公
じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい
…この世界でも生きていける術は用意している
責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう
という訳で異世界暮らし始めちゃいます?
※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです
※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています
大江戸闇鬼譚~裏長屋に棲む鬼~
渋川宙
ライト文芸
人間に興味津々の鬼の飛鳥は、江戸の裏長屋に住んでいた。
戯作者の松永優介と凸凹コンビを結成し、江戸の町で起こるあれこれを解決!
同族の鬼からは何をやっているんだと思われているが、これが楽しくて止められない!!
鬼であることをひた隠し、人間と一緒に歩む飛鳥だが・・・
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜
櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。
パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。
車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。
ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!!
相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム!
けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!!
パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる