銀狐と宝石の街 〜禁忌のプロジェクトと神と術師の契約〜

百田 万夜子

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二章 ハンタイガワ

137 劍 ◆ AKIRA 奇跡体験?

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XX27年 2月

ある朝。
「そうだ!」
「ん?」
「アキラ君たちって、夜〝お店〟に来た事、無かったわよね?」
唐突に、恭姉がそんな事を言い出した。
「うん…」
「そうですね」
言われてみれば、そうか。確かに、五歳から十六歳の今に至るまで、一度も営業時間内の店には入った事がない。いつも、兄妹ふたりの邪魔をしない様に部屋にこもっているのが当たり前だったんだ。
「じゃあ、奇跡体験してみない?」
少女が、目を輝かせている…でも口調は、可笑しいくらい、真剣に。
……意味が判らなかった。
「は?」
ようやく俺は反応をする。近くで本を読んでいたあきらは、不思議そうな顔と、好奇心が入り混じった顔をしていた。
と、棕矢そうやが「それほどのもんじゃないさ」と苦笑いする。
「そう?」
恭姉は、納得がいかない様だ。
「それで。どう? 奇跡体験」
普段抜かりない少女の、時々突発的に作動する…天然スイッチ全開だった。
……ど、どうって。
結局、少女に気圧され、曖昧に了承したのだった。

   *

……仕方ないなあ。
ほぼ強行されたに等しい〝奇跡体験〟とやらに付き合う羽目となった。
そうは言っても、あきらの方は、まんざらでもないらしく「ま、面白そうだし良いんじゃない?」とか言っている。
今朝、棕矢に営業オープン時間内に、絶対、門の外から入って来いよ」と念を押された。
その流れで、なぜか、コイツと二人だけで買い出しに行ってこいと言われたんだ。断ろうとしても、あの兄妹に丸め込まれた…本当に、息がぴったりだから、しぶとい…。
「何で、夜まで外に居なきゃならない上に〝ついでに色々と足りない物あるから、買って来て〟だ! あの野郎」
あのしぶとさは、俺達に買い出しをさせる為で、恭姉にも一芝居、打つように仕組んだんじゃないのか? なんて思ってしまう。
「まあまあ。あきら君、口が悪いですよ。文句言わない」
横で、やけに笑顔の惺が言う。
……お前になだめられる筋合いは無い。

   *

「さてと。次は…あ。そこ、曲がった先か」
律儀な惺に引っ張って行かれるようにして、買い物は、どんどんと進んでいく。
途中、棕矢に渡されたメモを見ながら、惺がふと思い出したみたいに言った。
「二人きりで買い出しなんて、初めてじゃないか?」
……そう言われると、そうだな。
俺が無言でいると、惺はひとりで「そうかぁ。僕がみせに来てから、もう一年以上経つのか」と、空を見上げながら呟いた。と思ったら、突然こちらを向いた。
「それも〝劍のおかげ〟だよ」
いつもの爽やかな笑い方じゃなく…妙に女みたいな顔して、にっこりとした。
……名前、呼び捨て。おかげって何だ。あと、そんな顔するな! ぞわぞわする。
何とも言い難い状況に目を逸らす。
惺が「ちょっと…何で目、逸らすんですか」と半笑いで言っているのが聞こえる。
知らない。照れ臭いのがこの面倒な奴に気付かれない事を祈りながら、次の店に入って行った。
ちなみに。この店を出るまで、俺は無言を貫いた。
店員がちらちらと俺達を見ているのが気になったが、何とかなった。

   *

頼まれた、買い出しメモと地図を交互に睨みながら、あと二軒ほど回り、やっと買い物が終わった。その頃には、空が綺麗な橙色と紺色のグラデーションに変わっていた。

二人で大きな荷物を抱えて歩く。惺は見掛けによらず力持ちらしく、軽々と大量の荷物を抱え、涼しい顔で歩いている。
そんな彼の姿に、俺は謎の敗北感を感じながら余計に疲れていく。

「はあ…」と溜息が出た。
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