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二章 ハンタイガワ

130 惺 ◇ AKIRA 黄鉄鉱

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「黄鉄鉱…PYRITEパイライトだ」
「その…パイライト? ってのは、どういう代物なんだ?」
棕矢そうやは、にやっと笑い、息を大きく吸い込むと説明を始めた。

 ****

黄鉄鉱(FeS2)
立方晶系。結晶しやすく、出現度の高いものから 六面体、五角十二面体、八面体…更にはそれ等が組み合わさった複雑な形を形成する場合もある。
火成岩、堆積岩たいせきがん等内に多く見られる副成分鉱物。

結晶面には、条線と呼ばれる細かな筋がよく見受けられ、条痕じょうこん(鉱物を素焼の磁器に擦りつけた時に生じる筋)は緑掛かった黒色。劈開へきかい(割れやすい性質)は無く、断口(劈開面以外の方向の断面)は不平坦。
また表面は天然の結晶でも、研磨されたかのような鏡面状に見える事も少なくはない。

ちなみに、微粉の色や靭性じんせい(外力によって破壊されにくい性質)、劈開…
それ等が各鉱物によって、特有で且つ異なる為、条痕や劈開の状態は鑑定にも役立つ。

他には…黄鉄鉱は、その見た目から金と間違いやすい故に〝愚者の金=fool、s gold 〟なんて名称もある。
でも金より硬いし、ハンマーで打つと火花が散るから区別出来る。
ああ、故に名の由来もギリシャ語の〝火〟から。

  ****

「…と、まあこんな代物だ」
何だ、こいつは…
「と、まあ」じゃない。やけに饒舌じょうぜつになったと思ったら、この類の専門書でも頭の中に入っているのか? というか、もう棕矢こいつ自身が事典か? しかも、五角十二面体って、どんな形だよ…。
僕は圧倒されながらも、何とか声を絞り出す。
「し、しかし。お前は、よくもそう次から次へと小難しい言葉が湧き出るものだな…」
博識にも程がある、と突いてやりたいところでもあるが、その気すらも薄れさせるほどの饒舌ぶりだった。これは本当に感嘆する他無い。
ん? いや…待てよ。
裏を返せば、この分野に余程長けているという事なのかもしれない。
昔から棕矢には一種の魅力オーラみたいなものを感じていたが、こんな特技があるなんて聞いた事もなかった。

今説明された事を必死で整理していると、僕の反応を待っているのか彼が黙ったままだと気が付いた。彼はただ、こちらを見詰めるばかり。

……僕はその〝あおと金〟に吸い込まれそうな感覚に陥った。


「あお…」

〝碧い瞳〟

それは、今朝の夢で見た色だった。
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