130 / 211
二章 ハンタイガワ
129 惺 ◇ AKIRA 碧い
しおりを挟む
XX26年 12月
青い。どこまでも碧い…。
…水?
…風?
…そこは。ただただ〝碧い〟だけの世界。
「惺!」
遠くから名を呼ばれ、目が覚める。
…夢か。
久し振りに鮮明な夢だった。
それに、何となく既視感?
今の、不思議な夢のせいか眠気は殆ど無く、すぐに上体を起こす。
その枕元には〝ひとつの鉱物〟が置かれていた。
「何だ…これ?」
金属? いや…鉱物?
真鍮みたいな黄色の〝それ〟は、小さな立方体が集まった結晶の様だ。小さな立方体は鏡の様な面で光沢を放っている。
そして各面に特徴的な、細かい筋模様。更によく見ると、隣り合う面同士で、筋が互いに直行する模様となっている。
何だか、とても綺麗にカットされた立方体のせいで、少々作り物染みた印象を受ける。
……さて。鉱物の正体が気になり出した。
調べたい…ところだが、しかし僕にはそんな知識も、手段も無い。
その時、頭の中でぼんやりと声がした。
『……屋根裏の本棚』と。
たったそれだけの言葉だったが、直感で重要な手掛かりとなる事は間違いないと思えた。
ああ…。
「どこかで聞いた事あったかな…〝あの声〟」
僕はあれこれ考えながら、朝食を摂りに階下へ向かった。
今日は朝食もそこそこに、件の屋根裏へ行ってみる事にした。しかし実際、嘘か真か。この館に屋根裏部屋が在る事をついさっき知ったばかりである。
「やっぱり、詳しくは棕矢に訊くしかないのか…」
食べ終えた皿を前に、呟く。それに透かさず反応したのは、恭さんだった。
「あら? 惺君、お兄様にご用事?」
言って、空いた皿を下げてくれる。これまた、相変わらずの観察眼。
……彼女に、詳しく話しても良いのだろうか。
結論に悩んだ末「後で、棕矢に訊きたい事がある、って伝言してくれますか?」とだけ告げた。
「惺?」
部屋の外から声がする。
ベッドに腰掛け、手で〝鉱物〟を玩んでいた僕は顔を上げた。
「棕矢…入って」
力無く答えると、ゆっくりと扉の隙間から声の主が顔を出す。
「どうしたんだ? 元気無いじゃないか」
開口一番、今の姿を簡潔に表現された。こいつに言われると、妙に悔しい。
いやいや。それより質問をしなければ…。
「なあ…棕矢に訊きたい事が…」
どうやって切り出そうかと悩んでいると、彼は「何だ、歯切れ悪いな」と笑って先を促してきた。
「じゃあ、唐突に変な質問をするかもしれない…」
上手い言葉が見付からず、ぎこちないまま問う。
「ああ、良いよ」
棕矢は僕の前に立ち、軽く腕を組む。
「ここに……〝屋根裏部屋〟って在るか?」
その突然の質問に彼は、いつか見たような複雑な表情をした。
それから押し黙ってしまった彼は、暫くして声も出さずに頷いた。
後に、いつもの軽い調子で「急にどうしてそんな事を思ったんだ?」と問われたが、まあ、そうだよな…。しかし説明をしようにも、情報が少な過ぎる上、第一「空耳だ」と笑われそうで上手く出来そうもない。言い淀んでいると、向き合う彼の視線が僕の手元へと落ちていた。
……?
「それ…」
そう零した彼…いくらか歳が離れている筈の棕矢が、とても幼く見えた。
「これ…?」
溜息混じりの僕の返事は情けなく、ふわふわと消える。
「棕矢は〝これ〟が何なのか、判るか?」
「ああ」
意外にも即答だった。「多分な」と濁したものの、何らか思い当たる節がある様だ。
「それは…」
黄鉄鉱
PYRITEだ。
青い。どこまでも碧い…。
…水?
…風?
…そこは。ただただ〝碧い〟だけの世界。
「惺!」
遠くから名を呼ばれ、目が覚める。
…夢か。
久し振りに鮮明な夢だった。
それに、何となく既視感?
今の、不思議な夢のせいか眠気は殆ど無く、すぐに上体を起こす。
その枕元には〝ひとつの鉱物〟が置かれていた。
「何だ…これ?」
金属? いや…鉱物?
真鍮みたいな黄色の〝それ〟は、小さな立方体が集まった結晶の様だ。小さな立方体は鏡の様な面で光沢を放っている。
そして各面に特徴的な、細かい筋模様。更によく見ると、隣り合う面同士で、筋が互いに直行する模様となっている。
何だか、とても綺麗にカットされた立方体のせいで、少々作り物染みた印象を受ける。
……さて。鉱物の正体が気になり出した。
調べたい…ところだが、しかし僕にはそんな知識も、手段も無い。
その時、頭の中でぼんやりと声がした。
『……屋根裏の本棚』と。
たったそれだけの言葉だったが、直感で重要な手掛かりとなる事は間違いないと思えた。
ああ…。
「どこかで聞いた事あったかな…〝あの声〟」
僕はあれこれ考えながら、朝食を摂りに階下へ向かった。
今日は朝食もそこそこに、件の屋根裏へ行ってみる事にした。しかし実際、嘘か真か。この館に屋根裏部屋が在る事をついさっき知ったばかりである。
「やっぱり、詳しくは棕矢に訊くしかないのか…」
食べ終えた皿を前に、呟く。それに透かさず反応したのは、恭さんだった。
「あら? 惺君、お兄様にご用事?」
言って、空いた皿を下げてくれる。これまた、相変わらずの観察眼。
……彼女に、詳しく話しても良いのだろうか。
結論に悩んだ末「後で、棕矢に訊きたい事がある、って伝言してくれますか?」とだけ告げた。
「惺?」
部屋の外から声がする。
ベッドに腰掛け、手で〝鉱物〟を玩んでいた僕は顔を上げた。
「棕矢…入って」
力無く答えると、ゆっくりと扉の隙間から声の主が顔を出す。
「どうしたんだ? 元気無いじゃないか」
開口一番、今の姿を簡潔に表現された。こいつに言われると、妙に悔しい。
いやいや。それより質問をしなければ…。
「なあ…棕矢に訊きたい事が…」
どうやって切り出そうかと悩んでいると、彼は「何だ、歯切れ悪いな」と笑って先を促してきた。
「じゃあ、唐突に変な質問をするかもしれない…」
上手い言葉が見付からず、ぎこちないまま問う。
「ああ、良いよ」
棕矢は僕の前に立ち、軽く腕を組む。
「ここに……〝屋根裏部屋〟って在るか?」
その突然の質問に彼は、いつか見たような複雑な表情をした。
それから押し黙ってしまった彼は、暫くして声も出さずに頷いた。
後に、いつもの軽い調子で「急にどうしてそんな事を思ったんだ?」と問われたが、まあ、そうだよな…。しかし説明をしようにも、情報が少な過ぎる上、第一「空耳だ」と笑われそうで上手く出来そうもない。言い淀んでいると、向き合う彼の視線が僕の手元へと落ちていた。
……?
「それ…」
そう零した彼…いくらか歳が離れている筈の棕矢が、とても幼く見えた。
「これ…?」
溜息混じりの僕の返事は情けなく、ふわふわと消える。
「棕矢は〝これ〟が何なのか、判るか?」
「ああ」
意外にも即答だった。「多分な」と濁したものの、何らか思い当たる節がある様だ。
「それは…」
黄鉄鉱
PYRITEだ。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
スメルスケープ 〜幻想珈琲香〜
市瀬まち
ライト文芸
その喫茶店を運営するのは、匂いを失くした青年と透明人間。
コーヒーと香りにまつわる現代ファンタジー。
嗅覚を失った青年ミツ。店主代理として祖父の喫茶店〈喫珈琲カドー〉に立つ彼の前に、香りだけでコーヒーを淹れることのできる透明人間の少年ハナオが現れる。どこか奇妙な共同運営をはじめた二人。ハナオに対して苛立ちを隠せないミツだったが、ある出来事をきっかけに、コーヒーについて教えを請う。一方、ハナオも秘密を抱えていたーー。

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~
深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公
じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい
…この世界でも生きていける術は用意している
責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう
という訳で異世界暮らし始めちゃいます?
※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです
※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています
マキノのカフェ開業奮闘記 ~Café Le Repos~
Repos
ライト文芸
カフェ開業を夢見たマキノが、田舎の古民家を改装して開業する物語。
おいしいご飯がたくさん出てきます。
いろんな人に出会って、気づきがあったり、迷ったり、泣いたり。
助けられたり、恋をしたり。
愛とやさしさののあふれるお話です。
なろうにも投降中
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる