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二章 ハンタイガワ
129 惺 ◇ AKIRA 碧い
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XX26年 12月
青い。どこまでも碧い…。
…水?
…風?
…そこは。ただただ〝碧い〟だけの世界。
「惺!」
遠くから名を呼ばれ、目が覚める。
…夢か。
久し振りに鮮明な夢だった。
それに、何となく既視感?
今の、不思議な夢のせいか眠気は殆ど無く、すぐに上体を起こす。
その枕元には〝ひとつの鉱物〟が置かれていた。
「何だ…これ?」
金属? いや…鉱物?
真鍮みたいな黄色の〝それ〟は、小さな立方体が集まった結晶の様だ。小さな立方体は鏡の様な面で光沢を放っている。
そして各面に特徴的な、細かい筋模様。更によく見ると、隣り合う面同士で、筋が互いに直行する模様となっている。
何だか、とても綺麗にカットされた立方体のせいで、少々作り物染みた印象を受ける。
……さて。鉱物の正体が気になり出した。
調べたい…ところだが、しかし僕にはそんな知識も、手段も無い。
その時、頭の中でぼんやりと声がした。
『……屋根裏の本棚』と。
たったそれだけの言葉だったが、直感で重要な手掛かりとなる事は間違いないと思えた。
ああ…。
「どこかで聞いた事あったかな…〝あの声〟」
僕はあれこれ考えながら、朝食を摂りに階下へ向かった。
今日は朝食もそこそこに、件の屋根裏へ行ってみる事にした。しかし実際、嘘か真か。この館に屋根裏部屋が在る事をついさっき知ったばかりである。
「やっぱり、詳しくは棕矢に訊くしかないのか…」
食べ終えた皿を前に、呟く。それに透かさず反応したのは、恭さんだった。
「あら? 惺君、お兄様にご用事?」
言って、空いた皿を下げてくれる。これまた、相変わらずの観察眼。
……彼女に、詳しく話しても良いのだろうか。
結論に悩んだ末「後で、棕矢に訊きたい事がある、って伝言してくれますか?」とだけ告げた。
「惺?」
部屋の外から声がする。
ベッドに腰掛け、手で〝鉱物〟を玩んでいた僕は顔を上げた。
「棕矢…入って」
力無く答えると、ゆっくりと扉の隙間から声の主が顔を出す。
「どうしたんだ? 元気無いじゃないか」
開口一番、今の姿を簡潔に表現された。こいつに言われると、妙に悔しい。
いやいや。それより質問をしなければ…。
「なあ…棕矢に訊きたい事が…」
どうやって切り出そうかと悩んでいると、彼は「何だ、歯切れ悪いな」と笑って先を促してきた。
「じゃあ、唐突に変な質問をするかもしれない…」
上手い言葉が見付からず、ぎこちないまま問う。
「ああ、良いよ」
棕矢は僕の前に立ち、軽く腕を組む。
「ここに……〝屋根裏部屋〟って在るか?」
その突然の質問に彼は、いつか見たような複雑な表情をした。
それから押し黙ってしまった彼は、暫くして声も出さずに頷いた。
後に、いつもの軽い調子で「急にどうしてそんな事を思ったんだ?」と問われたが、まあ、そうだよな…。しかし説明をしようにも、情報が少な過ぎる上、第一「空耳だ」と笑われそうで上手く出来そうもない。言い淀んでいると、向き合う彼の視線が僕の手元へと落ちていた。
……?
「それ…」
そう零した彼…いくらか歳が離れている筈の棕矢が、とても幼く見えた。
「これ…?」
溜息混じりの僕の返事は情けなく、ふわふわと消える。
「棕矢は〝これ〟が何なのか、判るか?」
「ああ」
意外にも即答だった。「多分な」と濁したものの、何らか思い当たる節がある様だ。
「それは…」
黄鉄鉱
PYRITEだ。
青い。どこまでも碧い…。
…水?
…風?
…そこは。ただただ〝碧い〟だけの世界。
「惺!」
遠くから名を呼ばれ、目が覚める。
…夢か。
久し振りに鮮明な夢だった。
それに、何となく既視感?
今の、不思議な夢のせいか眠気は殆ど無く、すぐに上体を起こす。
その枕元には〝ひとつの鉱物〟が置かれていた。
「何だ…これ?」
金属? いや…鉱物?
真鍮みたいな黄色の〝それ〟は、小さな立方体が集まった結晶の様だ。小さな立方体は鏡の様な面で光沢を放っている。
そして各面に特徴的な、細かい筋模様。更によく見ると、隣り合う面同士で、筋が互いに直行する模様となっている。
何だか、とても綺麗にカットされた立方体のせいで、少々作り物染みた印象を受ける。
……さて。鉱物の正体が気になり出した。
調べたい…ところだが、しかし僕にはそんな知識も、手段も無い。
その時、頭の中でぼんやりと声がした。
『……屋根裏の本棚』と。
たったそれだけの言葉だったが、直感で重要な手掛かりとなる事は間違いないと思えた。
ああ…。
「どこかで聞いた事あったかな…〝あの声〟」
僕はあれこれ考えながら、朝食を摂りに階下へ向かった。
今日は朝食もそこそこに、件の屋根裏へ行ってみる事にした。しかし実際、嘘か真か。この館に屋根裏部屋が在る事をついさっき知ったばかりである。
「やっぱり、詳しくは棕矢に訊くしかないのか…」
食べ終えた皿を前に、呟く。それに透かさず反応したのは、恭さんだった。
「あら? 惺君、お兄様にご用事?」
言って、空いた皿を下げてくれる。これまた、相変わらずの観察眼。
……彼女に、詳しく話しても良いのだろうか。
結論に悩んだ末「後で、棕矢に訊きたい事がある、って伝言してくれますか?」とだけ告げた。
「惺?」
部屋の外から声がする。
ベッドに腰掛け、手で〝鉱物〟を玩んでいた僕は顔を上げた。
「棕矢…入って」
力無く答えると、ゆっくりと扉の隙間から声の主が顔を出す。
「どうしたんだ? 元気無いじゃないか」
開口一番、今の姿を簡潔に表現された。こいつに言われると、妙に悔しい。
いやいや。それより質問をしなければ…。
「なあ…棕矢に訊きたい事が…」
どうやって切り出そうかと悩んでいると、彼は「何だ、歯切れ悪いな」と笑って先を促してきた。
「じゃあ、唐突に変な質問をするかもしれない…」
上手い言葉が見付からず、ぎこちないまま問う。
「ああ、良いよ」
棕矢は僕の前に立ち、軽く腕を組む。
「ここに……〝屋根裏部屋〟って在るか?」
その突然の質問に彼は、いつか見たような複雑な表情をした。
それから押し黙ってしまった彼は、暫くして声も出さずに頷いた。
後に、いつもの軽い調子で「急にどうしてそんな事を思ったんだ?」と問われたが、まあ、そうだよな…。しかし説明をしようにも、情報が少な過ぎる上、第一「空耳だ」と笑われそうで上手く出来そうもない。言い淀んでいると、向き合う彼の視線が僕の手元へと落ちていた。
……?
「それ…」
そう零した彼…いくらか歳が離れている筈の棕矢が、とても幼く見えた。
「これ…?」
溜息混じりの僕の返事は情けなく、ふわふわと消える。
「棕矢は〝これ〟が何なのか、判るか?」
「ああ」
意外にも即答だった。「多分な」と濁したものの、何らか思い当たる節がある様だ。
「それは…」
黄鉄鉱
PYRITEだ。
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