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二章 ハンタイガワ
126 劍 ◆ AKIRA いらっしゃい
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摘み取ったハーブを片付けてくる、とカウンターの奥へと入って行った棕矢。
恭姉が俺の隣の席に座る。
「さっきは驚かせちゃって、ごめんなさいね」
「ん? …ああ」
「お兄様に頼まれて、お庭のハーブを摘んでいたら劍君が見えたから。つい」
……それで、あんなにタイミングが良かったのか。
『劍…』
急に棕矢の声がした。
カウンターの奥…? からではない。
「〝裏〟か」
小さく呟く。恭姉が、ちらりとこちらを見て瞬きした。俺は顔を逸らし、出来るだけ平常心を保てるように身構える。あくまで、惺とは初対面を装わなければならないんだ。
と…もう一度。
『劍、出迎えてあげなさい』
耳元で〝アイツ〟が囁いた。そして同時に「綺麗…」と呟く声がした。
俺は一度目を閉じた後、顔を上げ、ゆっくりと目線をそちらに向ける。
俺の僅かな動きに気付いてか、恭姉も振り返る。と、彼女は小さく息を呑み立ち上がった。
「お兄様…! お客様よ!」
そのまま小走りでカウンターの奥へと入って行った。
肝心の〝彼〟は混乱しているのか「意味が解らない」という顔で呆然と立ったまま。
……さっきの冷静さは、どこ行ったんだよ。
何だか、そんな光景が面白可笑しくなって、身構えていた力が抜けてしまった。
「いらっしゃい、惺君」
自然と口から出た一言は、自分が思っていたよりも柔らかく聞こえた。
もしかすると、相手が見るからに動揺しているから、こっちが冷静になれたのかもしれない。だから。相変わらず、きょとんとしている姿に…ちょっと優越感。
そこへ恭と棕矢が、奥から出てきた。
「お兄様、彼かしら?」
「ああ、そう。本当に…惺…よく来たね」
一言一句噛み締めるような、本当に心から出たような言い方だった。棕矢の碧と金の瞳が、ほんの少し潤んでいる気がする。
優しく微笑む青年の言葉に少年は「えっ」と小さく零した。
「久し振りだな、惺」
「お前…棕矢か…?」
……そうか。棕矢が言っていた〝男の子〟ってのは、やっぱり惺の事だった。
しかも特別と言ったからには、きっと元から縁があるのだろう。
そういえば。裏の棕矢は、棕矢と惺が知り合いだと、知っていたのだろうか…?
恭姉が俺の隣の席に座る。
「さっきは驚かせちゃって、ごめんなさいね」
「ん? …ああ」
「お兄様に頼まれて、お庭のハーブを摘んでいたら劍君が見えたから。つい」
……それで、あんなにタイミングが良かったのか。
『劍…』
急に棕矢の声がした。
カウンターの奥…? からではない。
「〝裏〟か」
小さく呟く。恭姉が、ちらりとこちらを見て瞬きした。俺は顔を逸らし、出来るだけ平常心を保てるように身構える。あくまで、惺とは初対面を装わなければならないんだ。
と…もう一度。
『劍、出迎えてあげなさい』
耳元で〝アイツ〟が囁いた。そして同時に「綺麗…」と呟く声がした。
俺は一度目を閉じた後、顔を上げ、ゆっくりと目線をそちらに向ける。
俺の僅かな動きに気付いてか、恭姉も振り返る。と、彼女は小さく息を呑み立ち上がった。
「お兄様…! お客様よ!」
そのまま小走りでカウンターの奥へと入って行った。
肝心の〝彼〟は混乱しているのか「意味が解らない」という顔で呆然と立ったまま。
……さっきの冷静さは、どこ行ったんだよ。
何だか、そんな光景が面白可笑しくなって、身構えていた力が抜けてしまった。
「いらっしゃい、惺君」
自然と口から出た一言は、自分が思っていたよりも柔らかく聞こえた。
もしかすると、相手が見るからに動揺しているから、こっちが冷静になれたのかもしれない。だから。相変わらず、きょとんとしている姿に…ちょっと優越感。
そこへ恭と棕矢が、奥から出てきた。
「お兄様、彼かしら?」
「ああ、そう。本当に…惺…よく来たね」
一言一句噛み締めるような、本当に心から出たような言い方だった。棕矢の碧と金の瞳が、ほんの少し潤んでいる気がする。
優しく微笑む青年の言葉に少年は「えっ」と小さく零した。
「久し振りだな、惺」
「お前…棕矢か…?」
……そうか。棕矢が言っていた〝男の子〟ってのは、やっぱり惺の事だった。
しかも特別と言ったからには、きっと元から縁があるのだろう。
そういえば。裏の棕矢は、棕矢と惺が知り合いだと、知っていたのだろうか…?
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