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一章 Nid=Argent・Renard
114 劍 ◆ AKIRA 部屋
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夕食が終わった。
ぼくは、どこに居れば良いのか判らないから、取り敢えず、その場に留まって居たんだ。だからって、何をするわけじゃないけど…
すぐ傍に大きい窓があって、外は広い庭みたいだった。夜であまり、はっきりとは見えないけれど、地面は芝生みたい。周りにも、色んな植物が植えられていた。
ふと棕矢が、ぼくの近くまで来た。
そして「劍君、おいで」って。
「…どこに?」
……あ。どうしよう。
ふてくされているみたいな声になっちゃった。そうじゃないのに。
けれど、棕矢は気にしていないのか、明るい声で言った。
「君の居場所に行くんだ」
*
棕矢に連れられ、またお屋敷を歩く。とにかく部屋数が多くて、どこを見ても、孤児院と比べ物にならないところばっかりだ…。これじゃ、圧倒されるより先に…迷子になりそうで不安になる。
少しして棕矢が立ち止まったのは、行き止まり。つまり廊下の一番端っこ。
部屋の横には窓があって、その向かい側に大きいステンドグラスが飾られている。色んな色が、とっても綺麗。
「この部屋なら、迷わないかな?」
棕矢が言う。ぼくは、きょろきょろと周りを見ながら歩いていたから、どこをどう歩いてきたのか判らない。
「ここ…どこ?」
つい、ぽつりと言ってしまった。
「あ…」
判らなかったら叱られるんじゃ…って思ったけれど、棕矢は怒らなかった。
代わりに、優しく笑うと場所を説明してくれた。
「ん…うん」
咄嗟に頷いちゃったけれど…でも、駄目。きっと迷う。
「あはは、この屋敷、凄く広いからな。迷わないように、不安なら俺か恭に言えば良いよ」
「え?」……な、何で。考えてる事分かったの?
「ほら、そんな顔しないで。大丈夫だよ」
……また。どうして?
ぼくが、じっと棕矢を見上げたままでいると「ふふ。君の顔に書いてあるんだよ」…だって。この人…Dさんが言っていたけれど、本当に凄い人?
*
寝支度を済ませ、教えて貰った部屋に入る。流石に、今晩は棕矢に部屋まで案内して貰った。中に入ると正面に出窓があって、右に大きなベッドがあって…壁際には、ベッドと向かい合うようにして、少し大きめの机が置かれていた。最低限の家具だけで、余計な物が一切無いし、本当にすっきりした部屋。
ベッドに乗ってみる。入るじゃなくて、乗るって表現になるくらい大きいんだ。ん? いや、ぼくが小さいのかな…?
じゃなくて、とにかく大きくて、ふわふわのベッド。孤児院では、こんな綺麗なベッドじゃなかった。もっと古くて、茶色っぽくて、硬かった。
何だか「本当に、王子様になれたみたい」なんて。布団に潜り込みながら思う。
「ん? 王子様とか…今まで、そんな浪漫的なこと、考えた事無かった…よね?」
ただでさえ〝自分の部屋〟っていうのが変な感じで、夢みたいで。だから「映画みたい」っていう印象が頭から離れなくて……
あ。夕食、美味しかったな。ずっと緊張していて、殆ど手が付けられなかったのが、ちょっと…残念。ご飯、棕矢が作ったんだよね。棕矢って、何でも出来る人なのかな。
正直、何も解らないまま、流れでここまで来ちゃったけど。
「何か、初めて来たって気がしない…あんなに緊張するのに、凄く心地好い」
……この〝家〟なら。棕矢と恭さんとなら、安心して過ごせそう。
期待が膨らむ。
そんな思いを巡らせていたら、うとうとしてきた。
「眠…い」
ぼくは、いつの間にか眠っていた。
ぼくは、どこに居れば良いのか判らないから、取り敢えず、その場に留まって居たんだ。だからって、何をするわけじゃないけど…
すぐ傍に大きい窓があって、外は広い庭みたいだった。夜であまり、はっきりとは見えないけれど、地面は芝生みたい。周りにも、色んな植物が植えられていた。
ふと棕矢が、ぼくの近くまで来た。
そして「劍君、おいで」って。
「…どこに?」
……あ。どうしよう。
ふてくされているみたいな声になっちゃった。そうじゃないのに。
けれど、棕矢は気にしていないのか、明るい声で言った。
「君の居場所に行くんだ」
*
棕矢に連れられ、またお屋敷を歩く。とにかく部屋数が多くて、どこを見ても、孤児院と比べ物にならないところばっかりだ…。これじゃ、圧倒されるより先に…迷子になりそうで不安になる。
少しして棕矢が立ち止まったのは、行き止まり。つまり廊下の一番端っこ。
部屋の横には窓があって、その向かい側に大きいステンドグラスが飾られている。色んな色が、とっても綺麗。
「この部屋なら、迷わないかな?」
棕矢が言う。ぼくは、きょろきょろと周りを見ながら歩いていたから、どこをどう歩いてきたのか判らない。
「ここ…どこ?」
つい、ぽつりと言ってしまった。
「あ…」
判らなかったら叱られるんじゃ…って思ったけれど、棕矢は怒らなかった。
代わりに、優しく笑うと場所を説明してくれた。
「ん…うん」
咄嗟に頷いちゃったけれど…でも、駄目。きっと迷う。
「あはは、この屋敷、凄く広いからな。迷わないように、不安なら俺か恭に言えば良いよ」
「え?」……な、何で。考えてる事分かったの?
「ほら、そんな顔しないで。大丈夫だよ」
……また。どうして?
ぼくが、じっと棕矢を見上げたままでいると「ふふ。君の顔に書いてあるんだよ」…だって。この人…Dさんが言っていたけれど、本当に凄い人?
*
寝支度を済ませ、教えて貰った部屋に入る。流石に、今晩は棕矢に部屋まで案内して貰った。中に入ると正面に出窓があって、右に大きなベッドがあって…壁際には、ベッドと向かい合うようにして、少し大きめの机が置かれていた。最低限の家具だけで、余計な物が一切無いし、本当にすっきりした部屋。
ベッドに乗ってみる。入るじゃなくて、乗るって表現になるくらい大きいんだ。ん? いや、ぼくが小さいのかな…?
じゃなくて、とにかく大きくて、ふわふわのベッド。孤児院では、こんな綺麗なベッドじゃなかった。もっと古くて、茶色っぽくて、硬かった。
何だか「本当に、王子様になれたみたい」なんて。布団に潜り込みながら思う。
「ん? 王子様とか…今まで、そんな浪漫的なこと、考えた事無かった…よね?」
ただでさえ〝自分の部屋〟っていうのが変な感じで、夢みたいで。だから「映画みたい」っていう印象が頭から離れなくて……
あ。夕食、美味しかったな。ずっと緊張していて、殆ど手が付けられなかったのが、ちょっと…残念。ご飯、棕矢が作ったんだよね。棕矢って、何でも出来る人なのかな。
正直、何も解らないまま、流れでここまで来ちゃったけど。
「何か、初めて来たって気がしない…あんなに緊張するのに、凄く心地好い」
……この〝家〟なら。棕矢と恭さんとなら、安心して過ごせそう。
期待が膨らむ。
そんな思いを巡らせていたら、うとうとしてきた。
「眠…い」
ぼくは、いつの間にか眠っていた。
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