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一章 Nid=Argent・Renard

99 棕矢 ◆ Sohya 式

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「よし…」
はあ、と大きな吐息が漏れた。窓の外からは早起きの小鳥達の可愛らしい、さえずりが聞こえる。
早朝。副本を改めて読み返し、いや…自分で上書きし、完成したものを見直し…俺は、おじいちゃんとの〝約束〟も思い出せるだけ思い出してみた。
机上に広げた副本には、お祖父様じいさまが残した〝創造手順〟の上から、術と、鉱物を溶かした特殊なインクを用いて、俺が上書きをしたのだ。
託された〝やることリスト〟や〝遺言の手紙〟〝お祖父様から聞いた事〟を書いた。
「これ…どこに置いておこうか」

『〝大切なもの〟が奪われないように、敢えて〝判りやすいところ〟に置いてくれ』

……判りやすいところ、目立つところ、ねえ。
悩んだ末、目立つ場所なら〝店〟に飾っておこう、と決めた。
もし駄目なら、また他の場所を考えれば良いさ…と。
それから、お祖父様から託された、リストや手紙は、自室の机の引き出しに保管する事にした。勿論、厳重に封印ロックを掛けて。
全く。最近、色々と起こり過ぎだよ。本当。
もう工匠という立場の定めなのか、奇怪な出来事の対処も冷静にできるようになったし、良いのか悪いのか、段々と〝運命と秘密〟の扱いに慣れてきた。

「ご飯…作ろう」
そろそろ恭が起きてくる。
「今朝のお茶は何にしよう」などと考えながら、俺は部屋を出た。

  *

パタン、と扉が閉まった後…ひらひらと一枚の羊皮紙が床に落ちる。
出て行ってしまった彼は気付いていない。

この小さな一枚の紙切れが〝秘密の欠片〟だという事を。






食器を洗い、片付け終えた俺は、部屋に戻ってきた。
「ん?」
何か落ちている…。
……紙?
少し黄ばんだ、栞くらいの大きさの紙を拾うと、どうやら羊皮紙みたいだった。
何も書かれていない。真新しい羊皮紙。
「…何だろう」
部屋を出た時は、こんな物、落ちていなかった。
まじまじと見詰めていると、ふと、ある事に気付いた。
……封印ロック

もしかして!!
羊皮紙を両手で挟んで、目を閉じる。

「…やっぱり」
指先の皮膚を通して、微量にだが工匠の術の波動が伝わってくる。
俺は更に意識を集中させる。

ふっと波動が緩み、感じ取れなくなった。
ゆっくりと目を開ける。
さっきまで、何も書かれていなかった紙に、文字と数字が並んでいた。
焦げ跡みたいな茶色い字。まるで炙り出しだ…。

「式?」

□恭=燐灰石(Apatite)*Ca5(PO4)3(F,Cl,OH) × ルチル(Rutile)*TiO2 × ルナの鉱物いし

◇惺=黄鉄鉱(Pyrite)*FeS2 × 表側のルナの鉱物

◆劍=赤鉄鉱(Hematite)*Fe2O3 × 裏側のルナの鉱物

念の為、各存在カタチの創造式を残しておく。

「恭と、アキラ君たちの〝創造式〟?」
多分この表側、裏側とは、こちら側の世界と反対側の世界…という事だろう。
……これも、遺言…か。
きっと、お祖父様が副本のどこかに、しっかりと挟んでいたのかもしれない。

俺は封印ロックを掛け直すと、白紙になった羊皮紙を〝ダミー〟の裏表紙の、内側に貼り付けた。
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