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一章 Nid=Argent・Renard
81 祖父 □ grandfather 古書室
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「あの…」と、卓上の書類を片付けている、Dさんに声を掛ける。
私には、まだ果たしていない目的があるからだ。
「はい?」
「もし宜しければ、院の〝古書室〟を見せて頂く事は可能でしょうか…?」
Dさんが、きょとんとする。そして、笑顔になると「ええ、勿論です!」と頷いた。
……私の〝もうひとつの目的〟
〝あの本〟を古書室に隠し、恭が発見するのを未然に防ぎ、証拠隠滅を図ること。
だから私は先に、棕矢に渡す為の副本を作っておいたんだ。
それに今、私が持っている〝原本〟の中身は、術を掛けた者しか解けない結界の応用で厳重に封印してある。一般の人間は勿論、工匠でもそうそう簡単には解除できない。
Dさんが立ち上がり「鍵は事務室にありますので」と言いながら階段を先に上る様、私に促す。私が階段を上り始めると、彼女も後ろから付いて来る。
それから事務室に入るとすぐに戻って来た。
「ご案内致します」
彼女が言った。私達は並んで廊下を歩く。
少しすると、ふとDさんがこちらを見遣る。再び前に向き直ると目を細め、遠くの方を見ながら静かに話し出した。
「ご存じかとは思いますが、ここが孤児院になる前、この建物は大きな図書館だったんですよ」
「ええ、そうでしたね」
「はい。その頃、こちらにいらっしゃった事はありますか?」
「うーん…。来たと言えば来ましたが、中にまでは…」
「そうだったんですね」
「ええ」
「私は一度だけ、中に入った事があるんですよ」
「ほう」
「あの時は、娘がやけに読書家で。家にある本を読み尽くした、とか何とか。つまらなそうにぼやいていたので、一緒に来たんです」
「読書家とは、お子さん、今時珍しいですね」
「ふふ。主人が本好きで」
「そうでしたか」
「はい」
…ふと、棕矢と恭が仲良く本を広げている姿が脳裏に浮かんだ。
「ここです」
ぼんやりしていると、Dさんが立ち止まった。
横を見ると、所々ささくれた木製の引戸が在った。
塗装が剥がれ落ち、表面の色が斑になっている部分もあった。
学校みたいだな…と思った。
木製の長い廊下と、古い木製の引戸…どことなく、懐かしい景色だった。
Dさんが鍵を開け、引戸を引いた。
私は彼女が頷くのを見て…一歩、足を踏み入れた。
ふわっ
本と古い紙の独特な、甘い香りが鼻腔をくすぐる。
Dさんが「私は、ここで待っています。どうぞ、ごゆっくりと」と、また優しい丸い声で言い、笑い掛けた。
私には、まだ果たしていない目的があるからだ。
「はい?」
「もし宜しければ、院の〝古書室〟を見せて頂く事は可能でしょうか…?」
Dさんが、きょとんとする。そして、笑顔になると「ええ、勿論です!」と頷いた。
……私の〝もうひとつの目的〟
〝あの本〟を古書室に隠し、恭が発見するのを未然に防ぎ、証拠隠滅を図ること。
だから私は先に、棕矢に渡す為の副本を作っておいたんだ。
それに今、私が持っている〝原本〟の中身は、術を掛けた者しか解けない結界の応用で厳重に封印してある。一般の人間は勿論、工匠でもそうそう簡単には解除できない。
Dさんが立ち上がり「鍵は事務室にありますので」と言いながら階段を先に上る様、私に促す。私が階段を上り始めると、彼女も後ろから付いて来る。
それから事務室に入るとすぐに戻って来た。
「ご案内致します」
彼女が言った。私達は並んで廊下を歩く。
少しすると、ふとDさんがこちらを見遣る。再び前に向き直ると目を細め、遠くの方を見ながら静かに話し出した。
「ご存じかとは思いますが、ここが孤児院になる前、この建物は大きな図書館だったんですよ」
「ええ、そうでしたね」
「はい。その頃、こちらにいらっしゃった事はありますか?」
「うーん…。来たと言えば来ましたが、中にまでは…」
「そうだったんですね」
「ええ」
「私は一度だけ、中に入った事があるんですよ」
「ほう」
「あの時は、娘がやけに読書家で。家にある本を読み尽くした、とか何とか。つまらなそうにぼやいていたので、一緒に来たんです」
「読書家とは、お子さん、今時珍しいですね」
「ふふ。主人が本好きで」
「そうでしたか」
「はい」
…ふと、棕矢と恭が仲良く本を広げている姿が脳裏に浮かんだ。
「ここです」
ぼんやりしていると、Dさんが立ち止まった。
横を見ると、所々ささくれた木製の引戸が在った。
塗装が剥がれ落ち、表面の色が斑になっている部分もあった。
学校みたいだな…と思った。
木製の長い廊下と、古い木製の引戸…どことなく、懐かしい景色だった。
Dさんが鍵を開け、引戸を引いた。
私は彼女が頷くのを見て…一歩、足を踏み入れた。
ふわっ
本と古い紙の独特な、甘い香りが鼻腔をくすぐる。
Dさんが「私は、ここで待っています。どうぞ、ごゆっくりと」と、また優しい丸い声で言い、笑い掛けた。
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