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一章 Nid=Argent・Renard
80 祖父 □ grandfather 孤児院へ
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わざわざ孤児院の前まで送ってくれた青年は「またお店、行きますからね!」と軽く手を上げ、去って行った。
本当に助かった。お蔭で劍の身体も冷える事なく、私も随分と体力を温存する事が出来た。彼には今度、店に来てくれた時に何かサービスしよう。
改めて降り立った場所から院を眺める。
大きくて太い柱が、入口の硝子扉をしっかりと囲み支えている。昔のここを知らない人が見たら、病院か何かと間違えそうな、ちょっと陰気な雰囲気の門構えだった。
しかし、それは玄関だけだった。見上げて建物全体を見ると、やはり昔の面影が残っていて微かに残る記憶の図書館を思い出させる部分も見受けられた。
「でも、やっぱり少し雰囲気、変わったな」
何となく抱き抱えていた劍に向かって小さく呟き、硝子の自動扉をくぐった。
「御免ください。先程、連絡した者ですが」
これまた病院の待合みたいな、白が基調の広間と、その奥に受付が見える。
「はーい。こちらへどうぞ」
受付の小窓から、一人の若い女性が紙とペンを差し出した。
「用紙に氏名と、今の時刻の記入をお願いします」
「ああ、有り難う」
私は抱いていた劍を待合の長椅子の上に寝かせ、ペンを受け取り言われた通りに記入する。
「え…?」
……え?
顔を上げると、受付の女性が目をぱちくりさせ固まっていた。
「ど、どうかなされましたか?」
「い、いや…え?」
……「いや、え」って。
私が首を捻ったところに、男性の職員が「どうした?」と言う顔で近付いて来た。
そして何故か、彼の動きも一瞬止まり、私と私の今書いた文字を何度も視線が行き来する。そして…
「と、遠いところ、お越し頂き光栄です! お待ちしておりました」と勢いよく頭を下げられた。
「い、いえ、こちらこそ。恐縮です」
「いえいえ」
ありふれた言葉を交わした後、男性が近くに居た職員にてきぱきと指示を出す。
と、あっと言う間に劍は乳母車に乗せられ、私の持って来た荷物は職員に運ばれ、私は地下室に案内された。仕事柄なのか、皆手際が良かった。
*
「改めて、院長のDと申します」
地下へと続く階段の先に、初老くらいと思しき女性が立っていた。彼女は、電話の時と同じ丸みのある優しい声音で告げると、ゆっくりとお辞儀をした。
地下室は大きいストーブが一つあるだけだったが案外温かく、柔らかい黒褐色の照明のせいか、少し私の店の雰囲気と似ている。
「どうぞお掛けください」
Dさんに促され、一番近くの椅子に腰を下ろす。そこへ丁度、先程の男性職員が茶を運んで来た。
「どうぞ、ごゆっくり」
「有り難うございます」
「失礼致します」
彼は執事の様な一礼をして、階段を上って行った。
「では、お手数ですが…電話でも伺いましたが、もう一度お話を聞かせて頂けますでしょうか?」
「ええ、勿論です」
「はい」
*
「では。劍君、確かにお預かり致します」
彼女は壁際の幼児用寝台に寝かせていた劍の方を見て、はっきりとした口調で言った。
「はい。宜しくお願いします。すみません、急に無茶なお願いをしてしまって…」
「いいえ。そんな事ないですよ。私達は大丈夫ですから」
「…はい」
彼女の言葉に、思わず私は笑みを零した。
それから私と彼女は、いくつかの書類に互いの承認の署名をし合い、最終確認をし…手続きは終わった。
本当に助かった。お蔭で劍の身体も冷える事なく、私も随分と体力を温存する事が出来た。彼には今度、店に来てくれた時に何かサービスしよう。
改めて降り立った場所から院を眺める。
大きくて太い柱が、入口の硝子扉をしっかりと囲み支えている。昔のここを知らない人が見たら、病院か何かと間違えそうな、ちょっと陰気な雰囲気の門構えだった。
しかし、それは玄関だけだった。見上げて建物全体を見ると、やはり昔の面影が残っていて微かに残る記憶の図書館を思い出させる部分も見受けられた。
「でも、やっぱり少し雰囲気、変わったな」
何となく抱き抱えていた劍に向かって小さく呟き、硝子の自動扉をくぐった。
「御免ください。先程、連絡した者ですが」
これまた病院の待合みたいな、白が基調の広間と、その奥に受付が見える。
「はーい。こちらへどうぞ」
受付の小窓から、一人の若い女性が紙とペンを差し出した。
「用紙に氏名と、今の時刻の記入をお願いします」
「ああ、有り難う」
私は抱いていた劍を待合の長椅子の上に寝かせ、ペンを受け取り言われた通りに記入する。
「え…?」
……え?
顔を上げると、受付の女性が目をぱちくりさせ固まっていた。
「ど、どうかなされましたか?」
「い、いや…え?」
……「いや、え」って。
私が首を捻ったところに、男性の職員が「どうした?」と言う顔で近付いて来た。
そして何故か、彼の動きも一瞬止まり、私と私の今書いた文字を何度も視線が行き来する。そして…
「と、遠いところ、お越し頂き光栄です! お待ちしておりました」と勢いよく頭を下げられた。
「い、いえ、こちらこそ。恐縮です」
「いえいえ」
ありふれた言葉を交わした後、男性が近くに居た職員にてきぱきと指示を出す。
と、あっと言う間に劍は乳母車に乗せられ、私の持って来た荷物は職員に運ばれ、私は地下室に案内された。仕事柄なのか、皆手際が良かった。
*
「改めて、院長のDと申します」
地下へと続く階段の先に、初老くらいと思しき女性が立っていた。彼女は、電話の時と同じ丸みのある優しい声音で告げると、ゆっくりとお辞儀をした。
地下室は大きいストーブが一つあるだけだったが案外温かく、柔らかい黒褐色の照明のせいか、少し私の店の雰囲気と似ている。
「どうぞお掛けください」
Dさんに促され、一番近くの椅子に腰を下ろす。そこへ丁度、先程の男性職員が茶を運んで来た。
「どうぞ、ごゆっくり」
「有り難うございます」
「失礼致します」
彼は執事の様な一礼をして、階段を上って行った。
「では、お手数ですが…電話でも伺いましたが、もう一度お話を聞かせて頂けますでしょうか?」
「ええ、勿論です」
「はい」
*
「では。劍君、確かにお預かり致します」
彼女は壁際の幼児用寝台に寝かせていた劍の方を見て、はっきりとした口調で言った。
「はい。宜しくお願いします。すみません、急に無茶なお願いをしてしまって…」
「いいえ。そんな事ないですよ。私達は大丈夫ですから」
「…はい」
彼女の言葉に、思わず私は笑みを零した。
それから私と彼女は、いくつかの書類に互いの承認の署名をし合い、最終確認をし…手続きは終わった。
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