銀狐と宝石の街 〜禁忌のプロジェクトと神と術師の契約〜

百田 万夜子

文字の大きさ
上 下
75 / 211
一章 Nid=Argent・Renard

74 祖父 □ grandfather 孤児院

しおりを挟む
XX13年 12月


庭に雪が積もり始め、客足も少し減ってきた季節ころ

十一月の末くらいから不調を訴えていた妻の体調が急に悪くなり、突然倒れた数日後…。寝室のベッドに横たわる彼女と、私は大事な相談をしていた。


「アキラ達は今後…二人、別々の人生を送らせた方が良いんだろうか…」

「…ええ。私は…その方が良いと思っていますよ」

「…ああ。そうだよな」

……アキラだって〝存在カタチ〟といえども〝人間〟なんだ。


私達が創って、勝手な都合で〝中和の役目〟を託して…。だからと言って、この子達の人生全てを、私が決めるなんて事はしたくなかった。役目以外の未来は、縛りたくないんだ…。

「でも、どうやって別々に…」

煮詰まり、段々と不安に思えて来た頃だった。


「貴方、孤児院は?」

「え? …ああ!」

そうか! その手があった! 妻が言ったのは、きっと街中の方に在る孤児院の事だ。


   *


その孤児院は…ルナでは割と有名な、公認された施設である。
随分と昔は、大図書館だったのだが…いつからか孤児院にする計画が進められ、改装をし、今から三十年以上前に完成したのだ。
業者との契約の際…ルナおさが、ひとつ条件を出したと言う。
『館内の膨大な資料や古書は、そっくりそのまま保管、保護する事』と。


今ほど技術が発展していなかった時代…。突然の報せに、暫く毎日、号外が絶えず舞ったものだ。それに、計画理由も目的も曖昧だったあの頃は皆、物珍しかったのか競い合う様にして号外を奪い取っていた記憶がある。
当時の記事によると、改装した理由は『くだんの図書館には、読み物よりも資料や古典的な書物が圧倒的に多い為、一般人の利用者数が激減していたこと。建物が古く、補強工事を行うと共に、館内の余っている部屋の効率的な活用法を考慮した結果』だそうだ。

それから、私が人伝ひとづてに聞いた話だが…院は大きな建物と膨大な書物を活かし「孤児院だけでなく乳児院も兼ねよう」とか「これだけの本や資料が揃っているのなら、孤児達にも積極的に勉学の講習を行おう」とか、色々と良い案が速急に実現されたらしく、近隣の住人によると、それなりに長いこと評判が良いと言う。
孤児院というものは、一見「可哀相」と思われる場所かも知れない…が、この街の者達はそんな風に思っていない。例えば、現在も定期的に続く、募金や本の寄贈。古着の提供等。院の支援や取り組みの姿勢に感銘を受けた人間がひとり、またひとり…と協力していった事で、今の充実した施設へと成っていったのだ。


   *



「じゃあ、ひとりはそこにお願いするとして…もうひとりの方はどうするか…」

「そうねえ…」

「他に引き取ってくれそうなところなあ…」


しかし結局、二人して唸るだけで何も思い付かなかった…。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

夢の国警備員~殺気が駄々洩れだけどやっぱりメルヘンがお似合い~

鏡野ゆう
ライト文芸
日本のどこかにあるテーマパークの警備スタッフを中心とした日常。 イメージ的には、あそことあそことあそことあそこを足して、4で割らない感じの何でもありなテーマパークです(笑) ※第7回ライト文芸大賞で奨励賞をいただきました。ありがとうございます♪※ カクヨムでも公開中です。

大好きなあなたを忘れる方法

山田ランチ
恋愛
あらすじ  王子と婚約関係にある侯爵令嬢のメリベルは、訳あってずっと秘密の婚約者のままにされていた。学園へ入学してすぐ、メリベルの魔廻が(魔術を使う為の魔素を貯めておく器官)が限界を向かえようとしている事に気が付いた大魔術師は、魔廻を小さくする事を提案する。その方法は、魔素が好むという悲しい記憶を失くしていくものだった。悲しい記憶を引っ張り出しては消していくという日々を過ごすうち、徐々に王子との記憶を失くしていくメリベル。そんな中、魔廻を奪う謎の者達に大魔術師とメリベルが襲われてしまう。  魔廻を奪おうとする者達は何者なのか。王子との婚約が隠されている訳と、重大な秘密を抱える大魔術師の正体が、メリベルの記憶に導かれ、やがて世界の始まりへと繋がっていく。 登場人物 ・メリベル・アークトュラス 17歳、アークトゥラス侯爵の一人娘。ジャスパーの婚約者。 ・ジャスパー・オリオン 17歳、第一王子。メリベルの婚約者。 ・イーライ 学園の園芸員。 クレイシー・クレリック 17歳、クレリック侯爵の一人娘。 ・リーヴァイ・ブルーマー 18歳、ブルーマー子爵家の嫡男でジャスパーの側近。 ・アイザック・スチュアート 17歳、スチュアート侯爵の嫡男でジャスパーの側近。 ・ノア・ワード 18歳、ワード騎士団長の息子でジャスパーの従騎士。 ・シア・ガイザー 17歳、ガイザー男爵の娘でメリベルの友人。 ・マイロ 17歳、メリベルの友人。 魔素→世界に漂っている物質。触れれば精神を侵され、生き物は主に凶暴化し魔獣となる。 魔廻→体内にある魔廻(まかい)と呼ばれる器官、魔素を取り込み貯める事が出来る。魔術師はこの器官がある事が必須。 ソル神とルナ神→太陽と月の男女神が魔素で満ちた混沌の大地に現れ、世界を二つに分けて浄化した。ソル神は昼間を、ルナ神は夜を受け持った。

日本酒バー「はなやぎ」のおみちびき

山いい奈
ライト文芸
★お知らせ 3月末の非公開は無しになりました。 お騒がせしてしまい、申し訳ありません。 引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。 小柳世都が切り盛りする大阪の日本酒バー「はなやぎ」。 世都はときおり、サービスでタロットカードでお客さまを占い、悩みを聞いたり、ほんの少し背中を押したりする。 恋愛体質のお客さま、未来の姑と巧く行かないお客さま、辞令が出て転職を悩むお客さま、などなど。 店員の坂道龍平、そしてご常連の高階さんに見守られ、世都は今日も奮闘する。 世都と龍平の関係は。 高階さんの思惑は。 そして家族とは。 優しく、暖かく、そして少し切ない物語。

夜を狩るもの 終末のディストピア seven grimoires 

主道 学
ライト文芸
雪の街 ホワイト・シティのノブレス・オブリージュ美術館の一枚の絵画から一人の男が産まれた。 その男は昼間は大学生。夜は死神であった。何も知らない盲目的だった人生に、ある日。大切な恋人が現れた。そんな男に天使と名乗る男が現れ人類はもうすぐ滅びる運命にあると知る。 終末を阻止するためには、その日がくるまでに七つの大罪に関わるものを全て狩ること。 大切な恋人のため死神は罪人を狩る。 人類の終末を囁く街での物語。 注)グロ要素・ホラー要素が少しあります汗   産業革命後の空想世界での物語です。 表紙にはフリー素材をお借りしました。ありがとうございます。 主に かっこいいお兄さんメーカー様  街の女の子メーカー様  感謝感激ですm(__)m

最強の英雄は幼馴染を守りたい

なつめ猫
ファンタジー
 異世界に魔王を倒す勇者として間違えて召喚されてしまった桂木(かつらぎ)優斗(ゆうと)は、女神から力を渡される事もなく一般人として異世界アストリアに降り立つが、勇者召喚に失敗したリメイラール王国は、世界中からの糾弾に恐れ優斗を勇者として扱う事する。  そして勇者として戦うことを強要された優斗は、戦いの最中、自分と同じように巻き込まれて召喚されてきた幼馴染であり思い人の神楽坂(かぐらざか)都(みやこ)を目の前で、魔王軍四天王に殺されてしまい仇を取る為に、復讐を誓い長い年月をかけて戦う術を手に入れ魔王と黒幕である女神を倒す事に成功するが、その直後、次元の狭間へと呑み込まれてしまい意識を取り戻した先は、自身が異世界に召喚される前の現代日本であった。

処理中です...