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一章 Nid=Argent・Renard

74 祖父 □ grandfather 孤児院

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XX13年 12月


庭に雪が積もり始め、客足も少し減ってきた季節ころ

十一月の末くらいから不調を訴えていた妻の体調が急に悪くなり、突然倒れた数日後…。寝室のベッドに横たわる彼女と、私は大事な相談をしていた。


「アキラ達は今後…二人、別々の人生を送らせた方が良いんだろうか…」

「…ええ。私は…その方が良いと思っていますよ」

「…ああ。そうだよな」

……アキラだって〝存在カタチ〟といえども〝人間〟なんだ。


私達が創って、勝手な都合で〝中和の役目〟を託して…。だからと言って、この子達の人生全てを、私が決めるなんて事はしたくなかった。役目以外の未来は、縛りたくないんだ…。

「でも、どうやって別々に…」

煮詰まり、段々と不安に思えて来た頃だった。


「貴方、孤児院は?」

「え? …ああ!」

そうか! その手があった! 妻が言ったのは、きっと街中の方に在る孤児院の事だ。


   *


その孤児院は…ルナでは割と有名な、公認された施設である。
随分と昔は、大図書館だったのだが…いつからか孤児院にする計画が進められ、改装をし、今から三十年以上前に完成したのだ。
業者との契約の際…ルナおさが、ひとつ条件を出したと言う。
『館内の膨大な資料や古書は、そっくりそのまま保管、保護する事』と。


今ほど技術が発展していなかった時代…。突然の報せに、暫く毎日、号外が絶えず舞ったものだ。それに、計画理由も目的も曖昧だったあの頃は皆、物珍しかったのか競い合う様にして号外を奪い取っていた記憶がある。
当時の記事によると、改装した理由は『くだんの図書館には、読み物よりも資料や古典的な書物が圧倒的に多い為、一般人の利用者数が激減していたこと。建物が古く、補強工事を行うと共に、館内の余っている部屋の効率的な活用法を考慮した結果』だそうだ。

それから、私が人伝ひとづてに聞いた話だが…院は大きな建物と膨大な書物を活かし「孤児院だけでなく乳児院も兼ねよう」とか「これだけの本や資料が揃っているのなら、孤児達にも積極的に勉学の講習を行おう」とか、色々と良い案が速急に実現されたらしく、近隣の住人によると、それなりに長いこと評判が良いと言う。
孤児院というものは、一見「可哀相」と思われる場所かも知れない…が、この街の者達はそんな風に思っていない。例えば、現在も定期的に続く、募金や本の寄贈。古着の提供等。院の支援や取り組みの姿勢に感銘を受けた人間がひとり、またひとり…と協力していった事で、今の充実した施設へと成っていったのだ。


   *



「じゃあ、ひとりはそこにお願いするとして…もうひとりの方はどうするか…」

「そうねえ…」

「他に引き取ってくれそうなところなあ…」


しかし結局、二人して唸るだけで何も思い付かなかった…。

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