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一章 Nid=Argent・Renard

72 祖父 □ grandfather 貴方に願う

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「大丈夫だ。これで良い」

少し離れた所に立って居たマントの少年が告げる。
……そうか。
喜ぶべき場面の筈なのだが、私にはそんな淡々とした感想しか生まれなかった。「そうか、安心した」と、それだけだった。

この時、私の目の前に居たのが〝少年だけでなかった〟と気付いたから。


……お狐さま。


お狐さま?
あれは…お狐さまなのか?
雄姿ゆうし且つ、優雅な出立いでたち。淡く光る銀色の美しい毛並みと、長い尾が風になびかれる。
大きな体で一見狼の様にも見えるが、細部を見れば…確かに狐だった。
たった今、そのお狐さまが私達を見据え、同意を示すかの如く、深く頷いたのだ。


……お狐さま。

私は〝あの日〟の事を一生、忘れません。貴方を恨み、もう工匠なんて辞めてしまおうかと思ったこともありました。
けれど私が、禁忌と知りながら恭を取り戻し、貴方に迷惑を掛けたのも…この街のことわりを崩したのも事実です。本当に…申し訳ありませんでした。

そして、貴方にお願いがあります。
もうこれ以上、少女達の未来を奪わないでください。
私達の人生はもう短い。いっそ、この命を代償にしたって構わない。


だから…

だから、もうこれ以上…これ以上……
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