銀狐と宝石の街 〜禁忌のプロジェクトと神と術師の契約〜

百田 万夜子

文字の大きさ
上 下
63 / 211
一章 Nid=Argent・Renard

62 裏の棕矢 ◆ The back side of Sohya 正門

しおりを挟む
『〝正門〟を通って〝表〟の世界へ』出る。

それが〝彼〟との最初の約束。

約束と言っても「一方的な頼まれ事を聞いてやるだけ」という捻くれた気持ちも、まだ少しあった。

夜。お狐さまに言われた通りルナの大木の前まで来ると、例の如く白銀の光が現れ、頬を軽く風が撫でた。ふわりと夜の匂いがする。


「よう。神さま」


わざと感情を剥き出しにした挨拶をする。が、彼は動じることも、反応を見せることもせず、俺に鋭い目を合わせた。


『開門する』

一言だけお狐さまは告げる。
途端、彼の後ろにそびえた大きく太い幹が歪む。目がおかしくなったのかと思うくらい、ぐにゃり…と。直後、太陽を直視した時に似た、真っ白な光に視界を遮られた。
次第に目が慣れてくると、眼前には異質な光景が広がっていた。太い幹に三メートルくらいはある、大きな穴が開いていたのだ。

近しい表現をするなら、ブラックホールを純白にした感じだろうか。ただ白いだけで向こう側は一切見えない、真っ白な空間…
直立不動で目を見開き、網膜に焼き付くのではないかと思う程、視線を外せない俺に、お狐さまは淡々と言った。


『この向こう側が〝もうひとつの世界〟だ』


モウヒトツ ノ セカイ ダ


やっと我に返り…今、耳から入って来た言葉の意味を考える。

……この向こう側が〝もうひとつの世界〟

ふと肩にわずかな重さを感じる。

……?

目を細める。いつの間にか、俺の身体を真っ白な布が覆っていたのだ。

……マント?

『お前達〝人間〟が、門を通り、行き来するには〝そのマント〟が必要なのだ』

便利なことに状況に応じて、このマントは勝手に現れたり、消えたりする…らしい。
何の為の装備なのか、ぴんと来なかったが、特に支障は無いので適当に相槌を打っておいた。

……もう決めたんだ。

「行って来る」


足を踏み出すと、纏った純白が舞い上がる。
お狐さまは、最後まで黙っていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ベスティエンⅡ【改訂版】

花閂
ライト文芸
美少女と強面との美女と野獣っぽい青春恋愛物語、2つ目。 恋するオトメと武人のプライドの狭間で葛藤するちょっと天然の少女と、モンスターと恐れられるほどの力を持つ強面との、たまにシリアスたまにコメディな学園生活。 人間の女に恋をしたモンスターのお話が ハッピーエンドだったことはない。 鐵のような両腕を持ち 鋼のような無慈悲さで 鬼と怖れられ 獣と罵られ 己の性を自覚しながらも 恋して焦がれて 愛さずにはいられない。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

青を、往け。【短編集】

浅野新
ライト文芸
二十七歳。子供と呼ぶには大人すぎ、大人と呼ぶには危うい年齢。誠実に生きようとするあまりに一歩を踏み出す事ができない、不器用で純粋な、アダルトチルドレン男女五人の物語。

café R ~料理とワインと、ちょっぴり恋愛~

yolu
ライト文芸
café R のオーナー・莉子と、後輩の誘いから通い始めた盲目サラリーマン・連藤が、料理とワインで距離を縮めます。 連藤の同僚や後輩たちの恋愛模様を絡めながら、ふたりの恋愛はどう進むのか? ※小説家になろうでも連載をしている作品ですが、アルファポリスさんにて、書き直し投稿を行なっております。第1章の内容をより描写を濃く、エピソードを増やして、現在更新しております。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

義烈の嵐 神風連の乱(事変)

しげはる
歴史・時代
保守思想の起源である明治初頭の士族反乱。 その中で最も動機的異彩を放つ、明治九年熊本で起こった「神風連事変」宇気比によって決起した烈士達の思想背景やその人物を描く。

ヒーラーズデポジット

池田 蒼
ライト文芸
ギャンブルに明け暮れて生きてきてどん詰まりになった中年男性が藁にもすがる思いで訪れた、路地裏の不思議な店。そこで受けた審査をきっかけに出会った少女と不思議な力が男の運命を数奇なものに変えていく。複雑に絡み合う男の過去や裏組織の陰謀に予想されない結末が待ち構えているかもしれません。(ただいま絶賛リバイズ中です。そのうえで5月中に書き終えれるように頑張ります。)

○○しないと出られない部屋に閉じ込められたんだけど、なんならでたくない

砂澄
ライト文芸
これが噂の○○しないと出られない部屋?

処理中です...