銀狐と宝石の街 〜禁忌のプロジェクトと神と術師の契約〜

百田 万夜子

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一章 Nid=Argent・Renard

59 裏の恭 ◇ The back side of Kyoh 心配なの

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この頃、お兄様が相当疲れてる。いつも飄々ひょうひょうとしているって言うか、あまりそういうものを顔に出さない人なのに。何かあったのかしら…


   *


そんな八月の、ある夜。お兄様が血相を変えて、おみせを出て行ったの。たまたま目が覚めちゃって、私が部屋から出ようとしたら、バタバタって音がしたから何事かと思ったわ。
私は反射的に、ドアノブに手を掛けたまま立ち止まってしまって、ちょっと開けた扉の隙間から廊下を覗いていたの。そしたら、お兄様が前を走って行ったってわけ。


それから暫く、お兄様は帰って来なかった。
そして結局、帰って来たのも、真夜中だった。


何も言わず、あんな風に慌てて出て行った事…今までに、なかったと思うわ。
心配だったけれど、何だか深追いしちゃいけない様に思えたから、今も何があったのか訊けず仕舞だわ。
それに、あれからも、お兄様は私と居る間や昼間は何事も無かったかの様に振る舞うものだから…余計に訊くタイミングが無かった。


……私は心配なの。お兄様。

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