57 / 211
一章 Nid=Argent・Renard
56 裏の棕矢 ◆ The back side of Sohya 神
しおりを挟む
表の私は〝お狐さま〟に逢った事が無い、と言う。
祈りの日も工匠以外の人間が来るからか、お狐さまの方も姿を見せないらしい。
〝工匠の伝え〟を知っているのに、実物を目にした事が無いというのは、何とも腑に落ちないのではないだろうか…。
「でも、彼は真面目で、馬鹿みたいに責任感が強いからな…」
〝逢った事も無い、お狐さま〟の事を、きっと本当に心から信じているんだろうな。
私は、傍に寄り添う〝守護神〟に、そっと触れる。
〝彼〟が目を細めた。
XX13年 8月
私が〝お狐さま〟と出逢ったのは夢の中だった。
あれは十三歳の夏だったか。雨が強く、やけに寝苦しい夜だった。
*
ふと気付くと、俺は何も無い闇の中に立って居た。
本当に何も無かった。物も人も無い。見える景色、全てが黒いインクをぶちまけたみたいに真っ黒に染まっていた。その中に、ひとりで、ぽつんと立つ俺。
しかし。突如、光を感じ、上を見ると、影みたいに真っ黒な雲が裂け…その隙間から煌々と碧く輝く満月が姿を現した。……闇にも光にも吸い込まれそうだと思った。
『汝は…』
……?!!
声が聞こえた。
『汝は…私の……に…相応しい』
「だ、誰だ?!」
言うと同時に、目の前に光が渦を巻く。
絹糸の様な白銀の光が徐々に、塊になり形になってゆく…
形作られた光の塊。
それは、四肢と尾がすらりと長く伸びた、大きな狐だった。一見、狼の様にも見える。目が爛々として銀色の光を全身に纏う狐…キツネ
「お狐さま…」
凛々しく、真っ直ぐに俺を見据えた〝お狐さま〟は、再び言う。
『汝は、私の右腕となり、〝工匠たち〟の犯した過ちの償いを…』
頭に直接響く言葉が反芻される。意味が判らなかった。
……俺達が…犯した? 過ち?
「ふ、ふざけるな! 犯した? 過ち? 何だよ、それ…! そんな身に覚えの無いこと。濡れ衣だ!!」
怒鳴っていた。突然現れた彼に、どうして、そんな事言われるんだ! と…。
本当に意味が判らなかったんだ。
『また教えよう…』
言い残し、再び光の糸となって、彼は闇の中に消えて行った。
***
あの出逢いの夢を見てから。
不思議な事に、私は彼と同じ、テレパシーの様な会話が可能になったのだ。
祈りの日も工匠以外の人間が来るからか、お狐さまの方も姿を見せないらしい。
〝工匠の伝え〟を知っているのに、実物を目にした事が無いというのは、何とも腑に落ちないのではないだろうか…。
「でも、彼は真面目で、馬鹿みたいに責任感が強いからな…」
〝逢った事も無い、お狐さま〟の事を、きっと本当に心から信じているんだろうな。
私は、傍に寄り添う〝守護神〟に、そっと触れる。
〝彼〟が目を細めた。
XX13年 8月
私が〝お狐さま〟と出逢ったのは夢の中だった。
あれは十三歳の夏だったか。雨が強く、やけに寝苦しい夜だった。
*
ふと気付くと、俺は何も無い闇の中に立って居た。
本当に何も無かった。物も人も無い。見える景色、全てが黒いインクをぶちまけたみたいに真っ黒に染まっていた。その中に、ひとりで、ぽつんと立つ俺。
しかし。突如、光を感じ、上を見ると、影みたいに真っ黒な雲が裂け…その隙間から煌々と碧く輝く満月が姿を現した。……闇にも光にも吸い込まれそうだと思った。
『汝は…』
……?!!
声が聞こえた。
『汝は…私の……に…相応しい』
「だ、誰だ?!」
言うと同時に、目の前に光が渦を巻く。
絹糸の様な白銀の光が徐々に、塊になり形になってゆく…
形作られた光の塊。
それは、四肢と尾がすらりと長く伸びた、大きな狐だった。一見、狼の様にも見える。目が爛々として銀色の光を全身に纏う狐…キツネ
「お狐さま…」
凛々しく、真っ直ぐに俺を見据えた〝お狐さま〟は、再び言う。
『汝は、私の右腕となり、〝工匠たち〟の犯した過ちの償いを…』
頭に直接響く言葉が反芻される。意味が判らなかった。
……俺達が…犯した? 過ち?
「ふ、ふざけるな! 犯した? 過ち? 何だよ、それ…! そんな身に覚えの無いこと。濡れ衣だ!!」
怒鳴っていた。突然現れた彼に、どうして、そんな事言われるんだ! と…。
本当に意味が判らなかったんだ。
『また教えよう…』
言い残し、再び光の糸となって、彼は闇の中に消えて行った。
***
あの出逢いの夢を見てから。
不思議な事に、私は彼と同じ、テレパシーの様な会話が可能になったのだ。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
スメルスケープ 〜幻想珈琲香〜
市瀬まち
ライト文芸
その喫茶店を運営するのは、匂いを失くした青年と透明人間。
コーヒーと香りにまつわる現代ファンタジー。
嗅覚を失った青年ミツ。店主代理として祖父の喫茶店〈喫珈琲カドー〉に立つ彼の前に、香りだけでコーヒーを淹れることのできる透明人間の少年ハナオが現れる。どこか奇妙な共同運営をはじめた二人。ハナオに対して苛立ちを隠せないミツだったが、ある出来事をきっかけに、コーヒーについて教えを請う。一方、ハナオも秘密を抱えていたーー。

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
マキノのカフェ開業奮闘記 ~Café Le Repos~
Repos
ライト文芸
カフェ開業を夢見たマキノが、田舎の古民家を改装して開業する物語。
おいしいご飯がたくさん出てきます。
いろんな人に出会って、気づきがあったり、迷ったり、泣いたり。
助けられたり、恋をしたり。
愛とやさしさののあふれるお話です。
なろうにも投降中
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
「桜の樹の下で、笑えたら」✨奨励賞受賞✨
悠里
ライト文芸
高校生になる前の春休み。自分の16歳の誕生日に、幼馴染の悠斗に告白しようと決めていた心春。
会う約束の前に、悠斗が事故で亡くなって、叶わなかった告白。
(霊など、ファンタジー要素を含みます)
安達 心春 悠斗の事が出会った時から好き
相沢 悠斗 心春の幼馴染
上宮 伊織 神社の息子
テーマは、「切ない別れ」からの「未来」です。
最後までお読み頂けたら、嬉しいです(*'ω'*)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる