銀狐と宝石の街 〜禁忌のプロジェクトと神と術師の契約〜

百田 万夜子

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一章 Nid=Argent・Renard

56 裏の棕矢 ◆ The back side of Sohya 神

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表の私は〝お狐さま〟に逢った事が無い、と言う。

祈りの日も工匠以外の人間が来るからか、お狐さまの方も姿を見せないらしい。

〝工匠の伝え〟を知っているのに、実物を目にした事が無いというのは、何とも腑に落ちないのではないだろうか…。

「でも、あいつは真面目で、馬鹿みたいに責任感が強いからな…」

〝逢った事も無い、お狐さま〟の事を、きっと本当に心から信じているんだろうな。

私は、傍に寄り添う〝守護神〟に、そっと触れる。

〝彼〟が目を細めた。



XX13年 8月


私が〝お狐さま〟と出逢ったのは夢の中だった。
あれは十三歳の夏だったか。雨が強く、やけに寝苦しい夜だった。



   *



ふと気付くと、俺は何も無い闇の中に立って居た。
本当に何も無かった。物も人も無い。見える景色、全てが黒いインクをぶちまけたみたいに真っ黒に染まっていた。その中に、ひとりで、ぽつんと立つ俺。

しかし。突如、光を感じ、上を見ると、影みたいに真っ黒な雲が裂け…その隙間から煌々こうこうあおく輝く満月が姿を現した。……闇にも光にも吸い込まれそうだと思った。

なんじは…』


……?!!

声が聞こえた。

『汝は…私の……に…相応しい』

「だ、誰だ?!」

言うと同時に、目の前に光が渦を巻く。
絹糸の様な白銀の光が徐々に、塊になり形になってゆく…


形作られた光の塊。
それは、四肢と尾がすらりと長く伸びた、大きな狐だった。一見、狼の様にも見える。目が爛々らんらんとして銀色の光を全身にまとう狐…キツネ

「お狐さま…」

凛々しく、真っ直ぐに俺を見据えた〝お狐さま〟は、再び言う。

『汝は、私の右腕となり、〝工匠おまえたち〟の犯したあやまちの償いを…』

頭に直接響く言葉が反芻はんすうされる。意味が判らなかった。


……俺達が…犯した? 過ち?

「ふ、ふざけるな! 犯した? 過ち? 何だよ、それ…! そんな身に覚えの無いこと。濡れ衣だ!!」

怒鳴っていた。突然現れたこいつに、どうして、そんな事言われるんだ! と…。
本当に意味が判らなかったんだ。

『また教えよう…』

言い残し、再び光の糸となって、彼は闇の中に消えて行った。



  ***



あの出逢いの夢を見てから。
不思議な事に、私は彼と同じ、テレパシーの様な会話が可能になったのだ。


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