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一章 Nid=Argent・Renard

52 祖父 □ grandfather 石英

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「あ…!」

……!!
唐突に棕矢そうやが発した声は、同時に〝奇跡の合図〟と化した。

私の目に映った、その人……いや〝その子〟は…少女の姿をしていたのだ。
目の前。環の中に。

「私達がよく知っている子」の姿をした……


存在カタチ〟が横たわって居たのだ。


ふんわりとした輪郭線シルエットの白い薄手のワンピースが、風も無いのに微かに揺れる。
傍に置かれたままの〝器の中身〟は、一滴も残る事なく、消えていた。
存在カタチ…いや。恭が戻って来た。
カエッテキタ…。


計画は成功した…



しかし。
つかの間、〝鮮やかな夢〟は一瞬にして崩れた。
きぬ擦れの音。見ると、カタチが起き上がっていた。そして、私を見た。

「ひっ…」

声にならない悲鳴を上げる。
この瞬間とき。一瞬で、私の歓喜は恐怖に塗り替えられた。全身の毛穴が開き、皮膚が粟立つ。



……私は〝彼女〟と目が合った瞬間を一生、忘れないだろう。



何故なら。

〝その子〟の瞳には、色が無かったからだ。


色素が薄いとか、比喩とか、そう言う話ではない。一切ない。
色の無い瞳は…まるで無機質な人形の目や、深海の生物をも連想させる。
背筋が凍り、愕然と現実から、かけ離れた恐怖の情景を眺める。
他人事の様に。

金縛りの様に暫く、彼女から目を離せないでいた私は…
更なる恐怖を味わう事となった。


近くで鈍い音がした。
何かが床に落ち……違う。
存在カタチのすぐ後ろ。
棕矢が朦朧もうろうとした表情かおで、床に倒れている。
私は咄嗟に環の中に飛び込み、棕矢を抱き締めた。
突然の出来事に〝彼女への恐怖心〟など吹き飛んでいた。


……これは、〝あの夜〟と同じ?


いや、違う。あの時とは違った…。
抱き締めた少年の身体は完全に力が抜け、鉛の様に重い。
それは、まるで糸が切れて主を失った操り人形マリオネット
焦点が合っていない瞳が、辛うじて私を捉える。

……!!

目に映ったのは、最悪の光景だった。
少年の瞳は虚ろで、身体も徐々に冷たくなっていく。
碧い瞳は、片方だけ色を失っていて…いや、正確には、失いつつあって…
虚ろと呼ぶにも呼べない、無機質なものへと、着実に変化していく。

そう…〝彼女〟と同じ瞳に。
彼女の方を見ると…彼女の左目だけに変化があった。

……あおい。

無機質だった瞳が、碧く染まる。
布に、色の付いた水を染み込ませるみたいに…。
段々…段々。じわじわ じわじわ…

棕矢の〝左目の碧〟が薄れる度、恭の〝左目の碧〟は濃くなってゆく。

私は気付いた。

「このままでは、棕矢の命が危ない!」直感が、私の中でけたたましく警鐘を鳴らす。

………棕矢の瞳が、恭と〝共鳴〟している!!

もう、どんな言葉を掛けていたのかなんて、覚えていない。無我夢中で、どうしたら良いのか思考を巡らせた。
あれは、火事場の馬鹿力、と言うのか…。
気が付いた時には、私の手は〝金紅石ルチル〟が包含ほうがんされた石英を掴んでいた。

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