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一章 Nid=Argent・Renard
50 棕矢 ◆ Sohya 僕の瞳
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「何で…」
分からなかった。理解なんて出来なかった。
本当に、この子は、恭なのだろうか。なんて疑ってしまう自分が居る。そんな事を思ってしまう自分が嫌だった。
「どうして…」
言葉が、これしか出てこない。
……僕が寝ている間に、一体、何が起こったんだ?
困惑する僕に、いつの間にか起き上がった恭が抱き着いてくる。
僕は、今までと同じ様に、小さな軽い身体を抱き抱える。
瞳以外は何も変わらない、記憶の通りの恭なのに…。
なのに…。
僕の不安そうな表情のせいか、抱き着く恭の腕に力が込められた。ぎゅっと強く。
だから僕も強く、でも優しく抱き締め返す。
「お兄様」小さな声。久し振りの声。待ち焦がれた、大好きな妹の声。
複雑な心持ちで、恭の肩に顔を埋める。ふわふわの髪が頬をくすぐる。
きっと、もう一度、顔を上げたら「さっきのは寝ぼけていただけで、ただの見間違いだった」って事に…
「駄目…か」
ほんの少しの前向きな期待は、一蹴された。
僕の胸元に頬を押し付けて抱き着いたままの恭は、人形の様に動かない。
けれど微かに聞こえる小さな吐息が、僕の冷静さを保たせていた。
ガチャ
急な物音に僕は飛び上がり、反射的に恭の事を、強く抱き締めてしまった。
「お兄様…痛い…」小さな声が聞こえる。
「あ、ごめんな」
「ううん。大丈夫よ」
「起きたか」
声がした。今の物音は、お祖父様が扉を開けた音だったらしい。
「お兄ちゃんに話したい事があるんだ」
お祖父様は、真剣な目を、僕達に向けて言った。
……最近、真剣な難しい話ばっかり。らしくも無く、いじけたくなった。
僕達が起き上がり立とうとすると、お祖父様は「棕矢は、ここで良いよ」と制した後、「恭は、ちょっと、おばあちゃんの所で待っててくれるか?」と恭を見た。
始め、僕の服の裾を強く握り締めて動こうとしなかった恭だが、眴せして軽く笑い掛けると、少し躊躇った後に「はい」と、ほんのちょっぴり寂しそうな表情を残して、部屋から出て行った。
お祖父様は最初に「身体の具合はどうだ? 大丈夫か?」と訊いてきたので、肯定を頷きで示すと話し始めた。
「棕矢。気が付いていると思うが、恭の瞳の事だ…」
「はい」
……やっぱり。
「まず」
お祖父様が僕に小さな鏡を手渡し「顔、見てごらん」と、少し苦しそうに眉根を寄せた。訳も判らず、恐る恐る鏡を覗くと…途端、息が止まり、皮膚が粟立った。
鏡が映し出したのは、異様なものだった…自分の顔の筈なのに、自分じゃないみたいだった。
……何故なら。
僕の瞳も、変わっていたから…〝恭と同じ色〟に。
唯一、違ったのは、彼女と色は同じでも、それが左右反対だった事。
僕が固まったまま無言でいると、お祖父様は静かに切り出した。
それは、まるで作られた物語を聞いているみたいで…
声は聞こえていても、最初に聞いた時は、きっと半分も理解していなかったと思う。
聞こえて来た断片的な話を繋げ、更に何度か、お祖父様に確認をして、ようやく解った事……
それは、こんな内容だった。
分からなかった。理解なんて出来なかった。
本当に、この子は、恭なのだろうか。なんて疑ってしまう自分が居る。そんな事を思ってしまう自分が嫌だった。
「どうして…」
言葉が、これしか出てこない。
……僕が寝ている間に、一体、何が起こったんだ?
困惑する僕に、いつの間にか起き上がった恭が抱き着いてくる。
僕は、今までと同じ様に、小さな軽い身体を抱き抱える。
瞳以外は何も変わらない、記憶の通りの恭なのに…。
なのに…。
僕の不安そうな表情のせいか、抱き着く恭の腕に力が込められた。ぎゅっと強く。
だから僕も強く、でも優しく抱き締め返す。
「お兄様」小さな声。久し振りの声。待ち焦がれた、大好きな妹の声。
複雑な心持ちで、恭の肩に顔を埋める。ふわふわの髪が頬をくすぐる。
きっと、もう一度、顔を上げたら「さっきのは寝ぼけていただけで、ただの見間違いだった」って事に…
「駄目…か」
ほんの少しの前向きな期待は、一蹴された。
僕の胸元に頬を押し付けて抱き着いたままの恭は、人形の様に動かない。
けれど微かに聞こえる小さな吐息が、僕の冷静さを保たせていた。
ガチャ
急な物音に僕は飛び上がり、反射的に恭の事を、強く抱き締めてしまった。
「お兄様…痛い…」小さな声が聞こえる。
「あ、ごめんな」
「ううん。大丈夫よ」
「起きたか」
声がした。今の物音は、お祖父様が扉を開けた音だったらしい。
「お兄ちゃんに話したい事があるんだ」
お祖父様は、真剣な目を、僕達に向けて言った。
……最近、真剣な難しい話ばっかり。らしくも無く、いじけたくなった。
僕達が起き上がり立とうとすると、お祖父様は「棕矢は、ここで良いよ」と制した後、「恭は、ちょっと、おばあちゃんの所で待っててくれるか?」と恭を見た。
始め、僕の服の裾を強く握り締めて動こうとしなかった恭だが、眴せして軽く笑い掛けると、少し躊躇った後に「はい」と、ほんのちょっぴり寂しそうな表情を残して、部屋から出て行った。
お祖父様は最初に「身体の具合はどうだ? 大丈夫か?」と訊いてきたので、肯定を頷きで示すと話し始めた。
「棕矢。気が付いていると思うが、恭の瞳の事だ…」
「はい」
……やっぱり。
「まず」
お祖父様が僕に小さな鏡を手渡し「顔、見てごらん」と、少し苦しそうに眉根を寄せた。訳も判らず、恐る恐る鏡を覗くと…途端、息が止まり、皮膚が粟立った。
鏡が映し出したのは、異様なものだった…自分の顔の筈なのに、自分じゃないみたいだった。
……何故なら。
僕の瞳も、変わっていたから…〝恭と同じ色〟に。
唯一、違ったのは、彼女と色は同じでも、それが左右反対だった事。
僕が固まったまま無言でいると、お祖父様は静かに切り出した。
それは、まるで作られた物語を聞いているみたいで…
声は聞こえていても、最初に聞いた時は、きっと半分も理解していなかったと思う。
聞こえて来た断片的な話を繋げ、更に何度か、お祖父様に確認をして、ようやく解った事……
それは、こんな内容だった。
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