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一章 Nid=Argent・Renard
48 祖父 □ grandfather 夢みたい
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恭に、もう少し寝ていなさいと言い残し、私と妻は普段あまり使っていない部屋に入った。今、私達の寝室には棕矢を寝かせているので寝室が使えなかったし、一階で話すのも憚られる極秘な状況、内容だ。故、二人きりで話したかったのだ。
「あの反応だと、恭…瞳の事、判ってなさそうだな」
先程の髪留めを即急に作り、渡したのには、二つの理由があった。
ひとつ。片目の色が変わった事について、彼女自身がどう反応するのかを見たかったから。鏡で顔を見せる切っ掛けを作りたかったのだ。
もうひとつ。〝今の恭〟は言ってしまえば〝鉱物〟で出来ている。その為、件のお狐さまの事もあるし、魔除けのお守りとして持たせたかったから。あの髪留めは、結界に似た作用をする魔性具の一種なのだ。
妻が遠くの方を見ながら頷き、ぽつりと言った。
「恭ちゃんが戻って来てくれたなんて、嘘みたい…」
「ああ」
「…」
「お前はこんな夢みたいな事…信じてくれるのか?」
不安で咄嗟に出た私の科白に、彼女はふふっと小さく笑って返す。
「夢みたい…ねえ。私は夢でも良いですよ。夢の中の物語はどんなに楽しくても、どんなに辛くても必ず目覚めて消えてしまう。
もし、その夢が自分にとって幸せな内容で、少しでも長く見続けられるのなら…私は、恭ちゃんが居るこの世界に、居られるだけ居たいです」
詩を朗読する様にゆっくり響く温かい声。愛する妻の、心からの肯定だった。
私達は手を取り合う。少し骨張ってきた妻の手は、温かかった。私は壊れ物に触れるみたいに、両手で優しく包み込んだ。
妻が私の目を見る。
私達は…いいえ。
棕矢は、とても重大なものを背負う事になりますね。
「あの反応だと、恭…瞳の事、判ってなさそうだな」
先程の髪留めを即急に作り、渡したのには、二つの理由があった。
ひとつ。片目の色が変わった事について、彼女自身がどう反応するのかを見たかったから。鏡で顔を見せる切っ掛けを作りたかったのだ。
もうひとつ。〝今の恭〟は言ってしまえば〝鉱物〟で出来ている。その為、件のお狐さまの事もあるし、魔除けのお守りとして持たせたかったから。あの髪留めは、結界に似た作用をする魔性具の一種なのだ。
妻が遠くの方を見ながら頷き、ぽつりと言った。
「恭ちゃんが戻って来てくれたなんて、嘘みたい…」
「ああ」
「…」
「お前はこんな夢みたいな事…信じてくれるのか?」
不安で咄嗟に出た私の科白に、彼女はふふっと小さく笑って返す。
「夢みたい…ねえ。私は夢でも良いですよ。夢の中の物語はどんなに楽しくても、どんなに辛くても必ず目覚めて消えてしまう。
もし、その夢が自分にとって幸せな内容で、少しでも長く見続けられるのなら…私は、恭ちゃんが居るこの世界に、居られるだけ居たいです」
詩を朗読する様にゆっくり響く温かい声。愛する妻の、心からの肯定だった。
私達は手を取り合う。少し骨張ってきた妻の手は、温かかった。私は壊れ物に触れるみたいに、両手で優しく包み込んだ。
妻が私の目を見る。
私達は…いいえ。
棕矢は、とても重大なものを背負う事になりますね。
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