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一章 Nid=Argent・Renard
44 祖父 □ grandfather 罪悪感
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八月末。
今宵の月は、とても美しい満月だった。
私は、棕矢と二人で、仕事部屋へと向かう階段を上っている。
隣…いや、私より少し先を歩く少年。
今日は、何だかやけに、ご機嫌が宜しいみたいだ。
拍子良く段を踏み進めている。
仕事部屋を、最初この子は怖がっていた様だが、今は慣れてきたみたいで助かっている。
「何だ、棕矢。ご機嫌じゃないか。良い事でもあったのか?」
ちょっと、からかう口調で、背中に声を掛ける。
「…へへっ。はい! だって楽しみなんです!」
軽く振り向いた棕矢は、速度を緩め、私の横に並ぶ。
「あと少しで恭に会えそうだからか?」
「勿論です!」
「はは、おじいちゃんもだよ」
「僕、諦めません! 絶対に成功させます!!」
暗がりの闇を吹き飛ばしそうな、明るい声が響く。彼の瞳が輝いていて見えた。
この時、私はこの子に慰められたのだろうか。急に誇らしさが胸に湧き上がり、照れ隠しに、彼の頭を優しく撫でてやる。
「偉い偉い」
すると彼は、凄く嬉しそうな顔で恥ずかしそうに、はにかんだ。
「よし。おじいちゃんも諦めないからな」
口ではそう言った。本心だ。
けれど…
……本当は計画が禁忌だという事を、
きっと、まだこの子は、完全には知らないのだろう。
ほんの少しだけ、胸の奥がピリッと疼いた。
今宵の月は、とても美しい満月だった。
私は、棕矢と二人で、仕事部屋へと向かう階段を上っている。
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今日は、何だかやけに、ご機嫌が宜しいみたいだ。
拍子良く段を踏み進めている。
仕事部屋を、最初この子は怖がっていた様だが、今は慣れてきたみたいで助かっている。
「何だ、棕矢。ご機嫌じゃないか。良い事でもあったのか?」
ちょっと、からかう口調で、背中に声を掛ける。
「…へへっ。はい! だって楽しみなんです!」
軽く振り向いた棕矢は、速度を緩め、私の横に並ぶ。
「あと少しで恭に会えそうだからか?」
「勿論です!」
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「僕、諦めません! 絶対に成功させます!!」
暗がりの闇を吹き飛ばしそうな、明るい声が響く。彼の瞳が輝いていて見えた。
この時、私はこの子に慰められたのだろうか。急に誇らしさが胸に湧き上がり、照れ隠しに、彼の頭を優しく撫でてやる。
「偉い偉い」
すると彼は、凄く嬉しそうな顔で恥ずかしそうに、はにかんだ。
「よし。おじいちゃんも諦めないからな」
口ではそう言った。本心だ。
けれど…
……本当は計画が禁忌だという事を、
きっと、まだこの子は、完全には知らないのだろう。
ほんの少しだけ、胸の奥がピリッと疼いた。
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