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一章 Nid=Argent・Renard
30 棕矢 ◆ Sohya 僕の雨は降り止まない
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「棕矢!」
僕を呼ぶ声と、明るさで目が覚めた。
「ん…」
目を開けると眩しくて、一瞬、視界が眩んだ。辺りは真っ暗だった。そして、目の前にはお祖父様とお祖母様。二人は手に持った洋灯で、僕を照らしていた。
「お前は、今までどこに行ってたんだ!!」
暗闇に迫力のある声が響いた。…お祖父様の声だった。
突然のことに驚き、縮み上がる。こんなに怖くて、大きな声を出したお祖父様は、初めて見た。僕は固まったまま、お祖父様から目を離せない。正に、蛇に睨まれた蛙だった。
更に、ついこの間まで優しく慰めてくれていたお祖母様も、今は黙っている。その瞳の端が潤んできたかと思うと
「恭ちゃんが居なくなってから、まだ少ししか経っていないのに…お兄ちゃんまで居なくなっちゃったのかと思って…凄く凄く心配したのよ!」と、半分叫ぶ様にして、泣き崩れてしまった。
……ああ。そうか、僕は
「また、お祖父様達を困らせただけだった…んだ」
*
それから僕達三人は、真っ暗な道を歩いて帰った。洋灯の灯りだけを頼りに、寄り添いながら。
僕等の頭上で、いくつもの星が瞬いていた。
お祖父様とお祖母様と三人だけの食事。もう、これは何度目だろう…。
ふと隣の席に目を遣る。
今日も…僕の隣には、甘えてくる妹の姿は無い。
けれど、今。
お祖母様は、やっと食事が摂れる様になったし、顔色も良くなった。
お祖父様も少しだけれど、前より表情が柔らかくなった。
だから。
大丈夫。
これでも、きっと良い方向に進んでいるんだ。
…でも。
…だけど。
僕だけは、まだ何にも受け入れる事が出来ず、隠れて泣きながら過ごしていた。
曖昧な二十四時間を、只々過ごすだけの日々だったんだ。
季節はもう夏になるのに…僕の雨は降り止まない。
僕を呼ぶ声と、明るさで目が覚めた。
「ん…」
目を開けると眩しくて、一瞬、視界が眩んだ。辺りは真っ暗だった。そして、目の前にはお祖父様とお祖母様。二人は手に持った洋灯で、僕を照らしていた。
「お前は、今までどこに行ってたんだ!!」
暗闇に迫力のある声が響いた。…お祖父様の声だった。
突然のことに驚き、縮み上がる。こんなに怖くて、大きな声を出したお祖父様は、初めて見た。僕は固まったまま、お祖父様から目を離せない。正に、蛇に睨まれた蛙だった。
更に、ついこの間まで優しく慰めてくれていたお祖母様も、今は黙っている。その瞳の端が潤んできたかと思うと
「恭ちゃんが居なくなってから、まだ少ししか経っていないのに…お兄ちゃんまで居なくなっちゃったのかと思って…凄く凄く心配したのよ!」と、半分叫ぶ様にして、泣き崩れてしまった。
……ああ。そうか、僕は
「また、お祖父様達を困らせただけだった…んだ」
*
それから僕達三人は、真っ暗な道を歩いて帰った。洋灯の灯りだけを頼りに、寄り添いながら。
僕等の頭上で、いくつもの星が瞬いていた。
お祖父様とお祖母様と三人だけの食事。もう、これは何度目だろう…。
ふと隣の席に目を遣る。
今日も…僕の隣には、甘えてくる妹の姿は無い。
けれど、今。
お祖母様は、やっと食事が摂れる様になったし、顔色も良くなった。
お祖父様も少しだけれど、前より表情が柔らかくなった。
だから。
大丈夫。
これでも、きっと良い方向に進んでいるんだ。
…でも。
…だけど。
僕だけは、まだ何にも受け入れる事が出来ず、隠れて泣きながら過ごしていた。
曖昧な二十四時間を、只々過ごすだけの日々だったんだ。
季節はもう夏になるのに…僕の雨は降り止まない。
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