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一章 Nid=Argent・Renard
28 恭 ◇ Kyoh お兄様!
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六月六日。
私は、お兄様を見付けた。
お空からルナの大木を見ていたら、棕矢お兄様が、ずぶ濡れになって走って来たの!
泣きながら、私の名前を叫びながら…走って来るお兄様。
……そっか。
「今日のルナは雨なんだわ」
だから私にも、あれが〝お兄様〟だ、って判ったのね。
お空の女の子達が教えてくれた。
街に雨が降った時が、一番近くでルナを見渡せる、って。
それは、〝お狐さま〟が街を見守っているから、って言っていたわ。
だから〝お狐さまに選ばれた私達〟も雨の日だけは特に、街に近付ける、と。
あれは間違いなく、私を探している。
私は…息を切らしながらも必死に走り回って、自分の名前を叫び続けるお兄様を、こうやって、ただ見詰める事しか出来ない。
「お兄様…」
私が〝ここ〟に来てから、もうひと月くらい経つのに。それなのに。
それなのに、今でもあんなに必死に…
「お兄様!」
私は〝あの日の玄関〟で叫んだ様に、力いっぱい〝彼〟を呼んでいた。
「恭ちゃん…大丈夫?」
ふと横から女の子のひとりが、私の顔を覗き込んでいた。
ああ…私は、ぽろぽろと涙を零していたみたいです。
その娘に「うん。知っている人を見掛けただけよ」と、ぎこちなく笑って見せる。
……お兄様。私の〝この涙〟は、雨と共に貴方のもとに届いていますか?
私は、お兄様を見付けた。
お空からルナの大木を見ていたら、棕矢お兄様が、ずぶ濡れになって走って来たの!
泣きながら、私の名前を叫びながら…走って来るお兄様。
……そっか。
「今日のルナは雨なんだわ」
だから私にも、あれが〝お兄様〟だ、って判ったのね。
お空の女の子達が教えてくれた。
街に雨が降った時が、一番近くでルナを見渡せる、って。
それは、〝お狐さま〟が街を見守っているから、って言っていたわ。
だから〝お狐さまに選ばれた私達〟も雨の日だけは特に、街に近付ける、と。
あれは間違いなく、私を探している。
私は…息を切らしながらも必死に走り回って、自分の名前を叫び続けるお兄様を、こうやって、ただ見詰める事しか出来ない。
「お兄様…」
私が〝ここ〟に来てから、もうひと月くらい経つのに。それなのに。
それなのに、今でもあんなに必死に…
「お兄様!」
私は〝あの日の玄関〟で叫んだ様に、力いっぱい〝彼〟を呼んでいた。
「恭ちゃん…大丈夫?」
ふと横から女の子のひとりが、私の顔を覗き込んでいた。
ああ…私は、ぽろぽろと涙を零していたみたいです。
その娘に「うん。知っている人を見掛けただけよ」と、ぎこちなく笑って見せる。
……お兄様。私の〝この涙〟は、雨と共に貴方のもとに届いていますか?
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