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一章 Nid=Argent・Renard

24 祖父 □ grandfather 捜索

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御祈りの儀式が済むと、私達は挨拶もそこそこに、急いでみせに戻った。
もう若くもない身体故、必死だった。
おぼつかない足取りで息を切らしながらも、門まで辿り着くと館の結界を解く。
そして、震える手で扉を開けた。

そこには、棕矢そうやが立っていた。
驚きながらも「ただいま」と声を掛けようとして、私達は彼の異変に気付く。
少年は肩で息をしながら、こぶしを握り締め、瞳一杯にしずくを溜めていた。そして、それが零れぬ様に口を真一文字に結び、唇を強く噛み締めた顔は…明らかに、何かを訴えている。滅多に泣く事の無かった彼の姿に、私達は戸惑う。
刹那。途轍とてつもない不安が襲い掛かって来た。

……そうだ。恭は? 恭はどこだ!

普段は中々、兄のそばから離れない子なのに…。
様々な思考と想像、憶測が荒波の様に押し寄せる。

やっとの事で絞り出した私の声は、驚く程、酷くしわがれていた。

「恭は…どこだ? 一緒か?」

幼いこの子には、私の切羽詰まった醜いあの声は、どう届いたのだろう。
途端に彼の瞳から、ひとつ。またひとつ…しずくが零れてゆく。
それから喉を詰まらせる苦しげな音と共に、棕矢は泣き崩れてしまった。


その「ごめんなさい! ごめんなさい!」と繰り返す姿に、私達は訳も解らず、ただ黙る事しか出来なかった。


  *

それから一時間くらい、彼は泣いていた。一旦治まっても、またぐ赤子の様に泣き出す。何度も、何度も…。

  *


妻の介抱の末、ようやく彼が落ち着いた頃。
棕矢は、私達が危惧していた事を、淡々と語り出したのだった。

…昼までは、二階で、二人で本を読んでいたこと。
…昼食とお茶を取りに、棕矢だけが一階に下りたこと。
…部屋に戻ると、恭が居なくなっていたこと。
…そして、窓辺には読んでいた本だけが残っていたこと。
…しかし窓の鍵は閉まっていたこと。
…それから館中を捜し回ったこと。

話が終わると「そうか…。棕矢、よく頑張ったな」と言いながら、その小さな頭を撫でてやった。

すると、少しは安心した様で、私の胸に顔を寄せた彼の口元が緩むのが判った。
それに釣られ、こちらも少しだけ、緊張がほぐれる。


  *


その後、三人で必死にみせの中を捜し続けたが、その甲斐も虚しく、恭の行方は全く不明なままだった。
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