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〇章 招かれる

07 惺 ◇ AKIRA 非日常

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僕がここへ来てから、数日が経つ。
部屋にもって、ぼんやりとしていた時の事だった。


その日は、何となく落ち着かず、朝からずっと気を張っていたのだ。それは…いつに無く。これは…。新たな環境に、まだ慣れていないからなのか。

「それとも…」

あそこまえ〟と〝ここいま〟の類似点。
そんな風に、何時間も掛けながら、じわじわと気力を消耗させられていた。
その削れていく感覚を紛らわす為に、備え付けのベッドに寝転び、何度も体勢を変える。

と、コンコンと部屋の扉が叩かれた。足音も気配も無く、本当に唐突だった。だから一瞬、飛び上がってしまう。僕は、その反動を使う様にして起き上がり、一呼吸、吐いた後「どうぞ」と短く応じた。
ゆっくりと開いた扉の向こうに立って居たのは、あの黒髪の少年。改めて思うと、歳は…僕と殆ど大差無い気がする。
鮮血の様な、鮮やかなくれないの瞳が、ひたとこちらを捉える。
途端、貫かれた気がした。それ程に強い目をしていたのだ…彼は。
驚きつつも、ひとまず「どうしたんですか?」と、簡潔に訊いてみる。
すると意外にも、迷い無く見据えていた視線が落ち…それからうつむき加減のまま、彼は言う。

「話がある」

それから、少し間が空いた後「お前…何かあったのか?」と続けた。
その脈絡無き言葉は、予想していたものと遥かに違っていた。
あんな深刻そうな目をしていたのに、出てきた言葉が、あまりにも抽象的過ぎて…。
だから恐らく、僕は不思議そうな顔か、苦笑いでもしたのであろう。何となく、彼に睨まれた気がする。でも、仕方無いだろう? 脈絡が無いのだから、君が何を言いたいのか解りっこないさ。


「急に…どうしたんですか?」

しかし、その答えは実に簡単だった。
ただ、朝から僕が顔を出さないものだから、兄妹ふたりが心配しているらしい、と。
…そうか。気付けば、相当考え込んでいたのか時刻は昼過ぎだった。
それは、さて置き。

「君は…僕に話があるんだろう?」と、第二の疑問を投げる。すると、彼は一瞬向けた瞳を再び伏せ、暫くの沈黙の後で「そうだな」と答える。
そういう訳で、まずは、その場に立ち尽くしていた彼を部屋に招き入れ、ベッドに座らせる。それから、彼から聞いた伝言のこともあったので、階下に居ると言う兄妹に顔を見せて来る、と告げ部屋を出た。

もう、今では見慣れた広間ホールに足を運ぶ。
コツコツと靴音が響く廊下。建物の外装からは、想像も付かない様な、長い長い廊下…。そして、平然と並ぶ扉達。まるで、高級ホテルと言う例えが具現化されたかの様な、ちょっとばかり非日常的な場景。柄でも無く嬉々わくわくとして、その奇奇怪怪な道を踏み締めた。


……どこか、懐かしい想いとも取れる心持ちで。
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