アイオライト・カンヴァス 【下】【前編完結済み】

23歳・白露 ー愛しいひとたちー

4.想い出巡り -5-

少女に連れられ、夕人は黙ったまま静かに、ゆっくりと田舎の畦道を歩く。

「…………」

背後からその少女の黒髪で結われた三つ編みを見つめ、視線を落とす。

濃紺の上品なワンピースを纏う少女の姿はこの景色に全くもってそぐわず、本当に、不思議の国の妖精が自分をどこかへ連れて行こうとでもしているのかと不安になるほどで。




ーーーあれ、俺今…何してるんだったっけ？



ふとそんな風に思い、左手の指に掛けた紐から下がる小さな紙袋を見つめて我に返る。




『ーーー目的地周辺……案内を、終了します……』


夕人の不安を感じ取るように、マップアプリはまたひとりでに喋ったかと思うと勝手に道案内を終えた。





少女の姿を追いかけるように静かに歩き、民家と民家のあいだの農道のような細路をすり抜けると、その先には、一気に景色が開けていた。



「………………」




緑の美しい木々の広がる雑木林、その奥へ進めば森につながるのであろう山道の入り口。




そしてその直ぐそば。

真っ白な建物が、夕人の瞳に映る。




少しずつ近づき、門扉に記された古ぼけた文字へ目を凝らす。




『カトリック△△教会』




茶色い三角屋根の上には、大きく、高く。



まるで青い空へ伸びるよう美しく聳そびえ立つ、
十字架。







「ーーー……相模さん、どうぞ、こちらへ」


「え……？」




少女の手によって、重い木でできた扉が押し開かれた。