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23歳・白露 ー愛しいひとたちー

4.思い出巡り -2-

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車内は空いており、夕人は運転席後ろの二人掛け用の席へ着いた。
白い小さな紙袋を一旦隣の席に置いたが、やっぱり考え直し膝の上へ置き直す。

なぜだか手放してはいけないような気がしたためだ。



ーーブロロロロ…


エンジン音と共に始動する大きな車体。


毎朝、利用していた高校生の頃の記憶を噛み締める。

足元から身体に伝わる小刻みな振動がとても懐かしい。
エンジンディーゼルと使い古されてきた車内のシートに染む独特な香りに、夕人はただ耽っていた。





この、はいったいどういうものなのだろう。

いまこうして感じているこの想いは。





生まれて初めての感覚だった。

まるで隣に誰かが座っていて、長い長い絵本を耳元で朗読しているような気分に陥る。





いま、ただ自分は、速生のもとへ届け物をしているだけ…な筈なのに。
なぜか思い出を巡る一人旅でもしているような、させられているような……。


いや、まさかな。




『次はーーー市立第一高校前……
お降りのお客様はーーー……』


車窓から流れる景色のなか、見慣れた風景に目をやる。
三年間、速生と通い続けた高校が見えてくる。


「5年、か……」


降車する乗客は誰もおらず、静かに通過していこうとするその景色を眉を顰めてただ見つめる。
胸の奥の奥の方で静かにトク、トク、と優しいリズムを奏でている自分の心臓。

身体の内側から感じている。

彼と過ごした日々を、そのすべてによって形どられて今の自分のこの姿を。



懐かしくて、せつなくて。
つい…このあいだ。


三月みつきほどしか経ちもしないが、あの頃はただただ、戻りたくて仕方がなかったのだ。
身も心もまだ若く幼ささえ残っていた、とても浅はかで、それでいて真っ直ぐ素直であれた高校生の頃の自分に。






もう、
今は、思わない。











スマホのマップに目をやる。


『次ーー…△△停留所にてバスを降車……』



夕人は押しボタンへ手を伸ばした。






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