アイオライト・カンヴァス 【下】【前編完結済み】

23歳・白露 ー愛しいひとたちー

3.手紙 -6-

『きみは僕に、“生きて”と。
そう言った。
聞こえたよ，きちんと。
はっきりと、きみの声が……。』








恐ろしいほどに、忘れ去っていたーー…？


いや、ちがう、忘れたのでは無い。

真っ黒な紙でぐしゃぐしゃに雑に包んで、引き出しの奥の奥へと、見ないふりをして隠し込んでいたその記憶たち。


それらが、いま、姿を現した。


やっと見つけてもらえたと、汚れてしまった体を綺麗に拭き取り、泣きじゃくっている。







……だって、怖かったんだ……
あんな誰かの姿……、初めて見たんだ。


ーーどうして……？


俺はあなたの、最後の瞳の中に映り込む、記憶の最期に刻むに値する立派な人間なんかではない。

その命を自ら手放す罪を、赦す資格なんてない。
勝手に創り出した偶像を崇めたりしないで欲しい。


ーーーやめて……いやだよ。
そんなもの、見たくない。……怖いよ。




怖くて、仕方なくて。
記憶に残すことなどできなかったんだ。




ああ。
なんて都合の良い、この頭の中なんだろう。


全ては自己保身のため、すべてを無かったことに出来る、弱い弱い、あの頃の、俺。

もし彼がいま横にいるなら、
伝えたいと思った。











“風間さん、忘れていて、ごめんなさい”