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23歳・白露 ー愛しいひとたちー
2.家族 -4-
しおりを挟む「あのっ…!単刀直入に言わせてもらいます。
ーーーお父さんとお母さん。
僕はいま、夕人くんと……お付き合いさせてもらってます。
真剣に、交際しています」
突然の速生の行動に目の前の父はただ目を見開き黙って見つめている。
夕人もいつの間にか座り直したようで正座で手を膝の上に乗せ、顔を赤らめて俯く。
「……………」
何も言わないのは…速生が心のうちを代弁してくれると信頼しているからなのか、それともやはり目の前のこの二人の親の前で臆してしまい何も言葉が見つからないからなのか。
「ご挨拶がっ、その…遅くなってしまってすみません。
ご、ご存知だと思いますが……僕、夕人くんとはその、昔から知り得てる仲ではあったんですが、あの、いろいろあって離れていた期間もありました……。だけど」
緊張によりワイシャツの中の身体が汗で湿り気を帯びているのがわかる。
なんなら額から滝のように流れ落ちてきそうな気もする。
今までに生きてきたなかでこんなにも、凄まじい胸の動悸と冷や汗と緊張感の中に身を置いたことはあっただろうか?就活の最終面接の時なんて非ではない。その何百倍だ。
床に敷かれたカーペットの上についた手の甲を見つめて、昨日の夜からずっと考えていた、今ここで言うべき台詞をひたすら思い出そうとするが、考えれば考えるほど頭の中から抜けていくようで真っ白で。
(ーーいや、違う。考えてどうこうするような、そんなものではない、この想いは。)
ただ伝えるべきことは、一つだけ。
考えなくたってわかる。
拳をギュッと握りしめた。
「僕には、夕人くんが必要なんです。
夕人くんのことを、誰よりも一番大切に思って……心から愛しています。
これから先も、ずっと……死ぬまで一緒に居たいんです。
絶対に、悲しませたりしません。
だから、お願いします。
ーーーこれからも一緒にいることを、どうか……許してください。
………お願いします」
言い切って、顔を上げ、目の前の父の目をじっと見つめる。
ソファの膝の上で手を組み渋そうな表情をしていた一夜は、一度目を閉じて、「……うん。」と頷く。
「うん。そうか………はぁ……。
……わかった。ありがとう、速生くん。
君の気持ちは、とても良く伝わったよ。
ーーー…本当に、本気なんだね」
「………はい」
どことなく寂しげに、それでいて柔らかい笑みを浮かべて続ける。
「そうか…うん。
いや…まあ、寂しくないと言ったら嘘になるけど……俺は、お父さんはね、
夕人が幸せになってくれるのが一番だと思ってるから。
だから……まあ、その、速生くんとなら」
「私はまだ許してませんよ」
ーーー!!
父の言葉を遮って、母が凄んだ声で言い放つ。
一瞬で場が凍りついたのがわかった。
(えっ……夕人のお母さん……ま、マジ?
嘘、やっぱり俺ダメ?こんな何処の馬の骨かわからない野郎に可愛い夕人を任せられるわけないでしょうがって…そういうこと?
どっどどどどどうしようぅはああああああ)
今にも泣き出しそうな顔で速生がぶるぶる震えていると、朝美はゆっくりとキッチンから出てソファの横に座り込んだ。
そして目の前の夕人の顔をじっと見つめる。
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