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23歳・白露 ー愛しいひとたちー
2.家族 -3-
しおりを挟む「……ふむ。夕人……、そういえばこの前のNK展の絵画コンクール入賞、やったな。おめでとう。
凄いじゃないか?なぁ、中也叔父さんからもお祝いの連絡が来てたぞ。
『いつも約束の油絵ありがとう、大事に飾らせてもらってるよ』って。
なんだかその内プレミアがつきそうだなぁ…そうだ夕人、お父さんにも何か描いてくれよ?
サイン入りで」
「え?あ、あぁ…まあ、うん…その内ね」
よそよそしい笑顔で饒舌に話す父が、おそらくこの場でいま一番緊張しているのだろうということがうかがえる。
速生は黙ったまま、その親子のやり取りを耳にしつつ、目の前の父一夜の姿をじっと眺める。
きちんと顔を近くで見るのは初めてだが、流石は容姿端麗な夕人の父。
ツーブロックに刈り上げられた髪型はオフであるいまでも清潔感をよく感じ、仕事のできるワイルドな紳士感を醸し出しており。
薄水色のストライプ柄のシャツを纏い、あまり広すぎない肩幅でソファに腰掛けていても感じるスマートな出立ち。
よく刑事ドラマのバディ役で出るあのイケメン中堅俳優にちょっと似ている、なんて思ってしまう。23歳の息子がいるとは思えない。
母の朝美も綺麗な顔立ちをしているとは思っていたが、父は父できっと仕事場でもいろんな女性社員を魅了してる“罪な人”タイプなんだろうなぁと感じつつ、
”もしかして相模家のご先祖って南ヨーロッパ系の家系ですぅ?”と今度話のタネにしてみよう、と謎の話題作りを頭の中に練り込む速生。
「ーーー…で、君は…。」
一夜は引き攣った笑顔で速生を見上げる。
「うん。ごほん。
えーーーっと、そちらは……はやみ、くん。
隣の玖賀さんとこの、速生くんだよな。
久しぶりだねぇ?元気?」
(ひえええ、久しぶりと言われるほど会ったことも顔見たこともないのに。
はじめましてこんにちはでも良いくらいだよ夕人パパ……その顔こわいよぉぉ)
「はい、あの、ご無沙汰しております。
あっあの、これ、その……つ、つまらない物ですが……と、東京土産です。よ、良かったら。
お口に合うか存じませんが…何卒……」
速生は紙袋から綺麗に包装された箱菓子を取り出し、両手で差し出す。
取り出した瞬間に、げっ俺手汗がやばい、と冷や汗をかく。
「おお、ありがとう。
ま、まあ、座んなさい。ほら、夕人も突っ立ってないで。
ーーー朝美、お茶……。あ、ハーブティー以外でね」
キッチンで黙って待機している母に、お茶を淹れるよう合図した。
ソファの前、楕円形のウッドテーブルを挟んで二人は静かに座り込む。
「というか夕人、お前……ちょっと痩せすぎなんじゃないか?ちゃんと飯、食ってるのか?」
「えっ?うん、いやだから…そんな事ないって。
食べてるよ、ほんと」
心配してもらえるのは有り難いが、会う人会う人に“痩せすぎ”と言われもうウンザリだよと言いたそうに夕人は苦笑いする。
お茶を淹れ終わった朝美が、ウッドテーブルの上にカップソーサーを一つずつ置く。
「速生くん、コーヒーで良かったかしら?」
「あっはい!あの、俺っ、じゃなくて僕はなんでも……どんなものでも、お構いなく。ありがとうございます」
速生と父一夜の前にはホットコーヒーを、夕人の前には紅茶の入ったティーカップをカチャリ、と丁寧に置いた。
コーヒーが苦手ということを知るのはやはりさすが母と言ったところで、また息子の夕人の方も自分だけ別のものが出されていることに違和感を感じることもなく「ありがとう」と答えている。
夕人という人間の、この世で1番の理解者が間違いなくこの目の前にいる母、朝美であるということが隣に座っていてひしひしと感じる。
同時に色んなものを纏った雰囲気もひしひしと感じる。痛いほどに。
「…………」
三人分のお茶の用意が終わると、母は沈黙と共にすぐに立ち上がりまたキッチンへと向かう。
父はそれを目で追い、「なぁ母さん?やっぱり夕人、絶対痩せすぎだよなぁ?」と話を振った。
“俺一人にしないでよ…”と言いたそうな表情で。
母はぴたりと立ち止まると、ゆっくりこちらを振り返る。真顔のまま……
その能面のような表情の奥の奥にある真意を、読み取れる者はその場に誰も居ない。
そしてゆっくりと、口を開いた。
「ええ、そうねぇ……。
やっぱり、1人だとダメねぇ?
あら、1人じゃなかったかしら。
今って、どうしてるんだった?
ーーーねぇ?貴方たち………」
母のその意味深な問いかけを耳にした瞬間。
ーーーバッ!
速生はとても真剣な顔つきで、勢い良く床に両手両膝をついた。
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