アイオライト・カンヴァス 【下】【前編完結済み】

23歳・白露 ー愛しいひとたちー

2.家族 -2-

ーーガチャ…

リビングの奥、まっすぐ視線のその先……大きな液晶テレビの前のソファには、新聞紙を広げてどっしりと座る夕人の父、一夜かずやの姿が。

父は黙ったまま、顔のすぐ前の新聞紙をずっと眺めている。表情は全くわからない。というか胸より上は新聞紙しか見えない。

「……………」

（もっと学生の時、もう少しでも親交を深めておくべきだった……。）

よくよく考えると、いや考えなくても。速生は夕人の父と、こんな間近できちんと正面を切って会うのは初めてだった。

きちんと意識して顔を見たことは無く、ごくたまの休日、夕人を遊びに誘いに来た時などに後ろ姿をちらりと覗いたレベル。


（きちんと、定期的に…お茶菓子とか持って“いつもお邪魔させてもらってすみません！夕人くんとめちゃくちゃ仲良くさせてもらってますありがとうございます！”とか、声かけておくべきだった……。ああ高校生の俺のバカ……今更遅いけど、もっと気づけよな…）


家人の居ないあいだこれまでにどれだけ、早朝から毎日のように家に上がり込み、一人息子の夕人を連れ出し挙げ句の果てには部屋に連れ込みあんなことやこんなこと。しかも東京で再会したらもっと過激なあんなことやこんなこと。


やばい。
自分が父だったら、姿見た瞬間にその顔面に右ストレートぶちかますじゃ済まないかもしれない。


「…………」

「ちょっと、あなた……。」

ソファに座り新聞紙を広げたまま微動だにしない父の前、立ち尽くした二人の姿を見て居た堪れず、朝美が声をかけた。


そしてキッチンへと引っ込む。
“カチャ、カチャ”と陶器の擦れる音にお茶を用意してくれていることがうかがえる。


夕人と同じで気が強くいつも堂々と意見をビシバシ物申す母の朝美でも、流石にこの場では何をどう切り出せば良いのかわからず困った様子。


この澱んだ空気をどう打破するべきか…いまこの場にベストな言葉は一体なんなのか……
速生は目の前にいる夕人の父、一夜を新聞紙越しにじっと見つめひたすら考える。


（“あっお父さぁん！ご無沙汰ですぅ！その新聞朝刊ですけど何か面白いコラム記事でもあったんですかぁ⁉︎”
ーーーよしこれで行こう。）


口を開きかけたその時。




「………父さん、ただいま。
あの、その新聞逆さまだけど……読めてる？」

「…………‼︎」

（ーーーゆうとぉぉ！KY！それ言っちゃダメ！）


「……………」
ーーーチラッ




逆さまの新聞紙を手に握ったまま、上から目だけ出しチラリと目の前の二人に視線を当てる父。

「…………」

何も無かったかのように父は、カサカサ……と新聞紙を静かに畳む。




「うん。おかえり。久しぶりだな夕人？
元気してたのか？」

ソファに腰掛けたまま、目の前に立つ二人を見上げる。



「うん……元気だよ」