アイオライト・カンヴァス 【下】【前編完結済み】

オガタカイ

文字の大きさ
上 下
91 / 121
23歳・白露 ー愛しいひとたちー

2.緊張のドライブ -3-

しおりを挟む





『ーーー……キキィッ』

車は静かに停車する。

「ーーお客さんがた、着きましたよ。」


速生の声に夕人はずっと伏せていた目を上げる。
門扉、塀の前に横付けで停められた車。


ーーバタンッ ガチャ…

先に運転席から出た速生が後部座席のドアを開け、夕人に“降りれる?”と目配せする。

うん、とだけ答え、高級車の赤く艶々しい光るステップからゆっくり足を下ろした。

変わっていない……綺麗に整備された道路、歩道から続く掃き掃除の行き届いた庭、赤い身を付けた南天の木。
よく目にする名前の知らない小さな野鳥が、実を啄み、パタパタと飛び立っていく。



「ま、運転テクニックはまずまずね…褒めて遣わすわ、ご苦労。
ーーーハヤ、車庫入れ、私がやっとくからいいわよ。」


早苗はそう言うと速生から、キーを受け取る。


「こう見えてありとあらゆる営業車を運転させられてるんで…おかげさまで。
ーーー社畜舐めんなよ?」


助手席に置いた夕人のボストンバッグとブリーフケースを降ろし……紙袋を抱え、黙ったままの夕人へと目線を向ける。


心配そうに、複雑そうに見つめる。


「……………」




見慣れたはずの……だけど、実に5年ぶりに直接目にするその景色を見た瞬間、何とも言えない感情が胸のうちに湧き上がる。



ーーー懐かしい。



15歳の、あの雪の日。

ぼろぼろに傷付いた心をどうにか引き摺って、やっとのことで見つけた一筋の光、安息の場所。

この一軒家へと転居してきたあの日のことを思い出す。




「ハヤ、お父さん明日少しだけ帰って来られるみたいだから。
大体のことは伝えてあるから、大丈夫とは思うけど。またその時、
顔見せてあげなさいね」


「ああ……。ありがとう」


「じゃ、ほら。
お待ちかねよ。……頑張ってきな、息子」

その早苗の声に、速生は振り返り目線はーーー…相模家の玄関へ。







「お帰りなさい。夕人……」


「母さん。
ーーーーただいま。」



見慣れた玄関ドアの前。

夕人の母、朝美が立っていた。




速生は紙袋を手に抱え、

「ご無沙汰してます……」と深く頭を下げた。

一歩、二歩。夕人に近付き、相模家の門内へと足を踏み入れる。





「久しぶりね、速生くん。
ほら、じゃあ上がってーー…。
ーーー夕人。お父さん、中で待ってるわ」






「うん……。速生、行こう?」




しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

ハンターがマッサージ?で堕とされちゃう話

あずき
BL
【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ハンター ライト(17) ???? アル(20) ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 後半のキャラ崩壊は許してください;;

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

【完結】嘘はBLの始まり

紫紺
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。 突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった! 衝撃のBLドラマと現実が同時進行! 俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡ ※番外編を追加しました!(1/3)  4話追加しますのでよろしくお願いします。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

処理中です...