アイオライト・カンヴァス 【下】【前編完結済み】

オガタカイ

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23歳・白露 ー愛しいひとたちー

1.母への恐怖、からの驚愕

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ーーー…



ーーガタン、ゴトンガタン…





4人掛けのボックス席。
連休初日にもかかわらずと意外にも混雑していない列車内で、二人は並び合って着席していた。

向かいの席には乗客が座ろうとする様子も無かったため、気にせず足元に荷物を置くことができ助かった。

主に衣類が入った夕人のボストンバッグ、速生のいつも仕事に使っているブリーフケース。
その横……大事そうに脚の間に挟むように置かれた、白い包装箱の入った紙袋。何が入っているのかは、敢えて聞かない。



『次はーー…M駅ーー…お降りのお客様はーー…』


車掌のアナウンスに夕人は顔を上げた。

目的地の駅名を繰り返し、乗換案内を淡々と説明続けるそのベテランを思わせる低音ボイスの響きを耳に反芻させる。

「……………」


約1時間ほど揺られていただろうか、遠く長い長い地元までの道のりも、過ぎてしまえばあっという間だった、と感じながらも、やっぱり……なんだか落ち着かなくて。




見覚えのある景色へと少しずつ近づいていく、怱怱そうそうと流れる窓の外を見つめながら、夕人は、「ふぅ、」と息を吐き、横並びで隣に座る速生へ目を向けた。

座席の腕置きに肘をつき頬をもたれかけた速生は、目を閉じたまま眠っているように見えた。

速生がうたた寝するなんて、本当に珍しい。
初めて見たかもしれない。そう思いながら、


ーーー疲れているんだろうな、もう少し寝かせてあげたいけど。乗り過ごしちゃうと困るし……


そう思い肩を優しくぽんぽん、と叩き顔を覗く。


「速生、………着くよ。
起きないとーーー………」


その声にすっと目を開けた速生は、黙ったまま、夕人の顔をじっ…と見つめる。



「ーーー……夕人。……緊張してる?」

「……えっ?」


なんだよ起きてたのか、と言いかけて、あまりにも真剣な表情で見つめてくる速生のその様子に、返事をかえすのを少し戸惑う。



「あ………うん。ま、まあ…それなりには。
だって、ほんと久しぶり過ぎてさ…」




母にはメッセージで、今回の連休で帰省することを伝えていた。

実に5年ぶりとなる地元への帰省。


ただ単に家に帰るだけ、というのとは訳が違う。



一緒に連れていく相手がいるということ。
そしてその相手が速生で、彼が、そして自分が。何を話す決意をしているのかーーー…





ーーーガタン、ゴトンガタンゴトン


「……いいこと教えてやろうか?」

「ーーーえっ…?」

速生も一瞬目を伏せると、「ふぅ、」と息を吐く。



「俺、もう今既に、心臓バクバク。
夕人の家着いたら、なんて話そうかーー…まじで。怖すぎて……」

「そ、そう……なんだ」

「夕人。おばさ…いや、お母さんにメッセージで帰省すること伝えてるんだよな?なんて?」


「えっ……あ、あぁ。
えーーーっと……」



夕人はスマホを取り出し画面をタップする。


「“速生と帰るから。大事な話があるから父さんと一緒に待ってて”
……って、送ったよ」


「ーーーうん。
……で、なんて?」



気になるのはそこから先だ。

ずっと頑なに帰省を拒んだ夕人が突然帰ってくる、しかも隣家に住んでいたを、わざわざ引き連れて大事な話がある、だなんて。

普通なら驚きすぎてきっとただごとではないと慌てふためく夕人の母の様子がメッセージの文面にもあらわれるはずだ、と。




「“了解”
……だけ……」


「…………」



ーーーガタンッ…ザアアアアアーーー


車内が一瞬遮光され薄暗くなる。トンネルに差し掛かった。



「ああぁぁあ、やばい。
俺、殺されるかもぉ……おばさんとおじさんの可愛い可愛い夕人に俺が何を、どんなことをしてるかなんて知られたらほんと、あぁぁ……」


「いや別に言わなくていいことまで言う必要ないからな……?
だ、大丈夫だって。ーーそんなの、俺だってさぁ」



『ーー次は、M駅、M駅。到着いたしますーーー…』



ーーガタン、プシューーッ…


ドアが開く。

二人は足早に座席から立ち列車から降りた。



少し混み合ったホームから続く階段。
二人は離れないようお互いの姿を気にしながら、改札口へ向かう。
並んで歩きつつ、先刻の話の続きにもどる。



「ーーー俺だってさぁ、怖いよ。
速生のおばさ……いや、お母さん、お父さんに、俺、なんて話せばいいか……」


「え?あ、あぁ。うちの親かぁ……。
夕人、あのさ……それなら。ちょっと俺言いそびれたんだけどさ。実は……」




そう話しながら駅構内を出たとき。


夕人にとって懐かしい景色が広がるその駅前の情景。
ロータリーの駐車場に停まっている真っ赤な高級車が、突然『パァン!』とクラクションを鳴らした。




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