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23歳・白露 ー愛するひとー
3.一緒に、帰ろうよ。 -1-
しおりを挟むひとくち、口に運んだ瞬間に、夕人は顔が綻んだ。
そして速生を見る。
「………おいひぃ……」
「ーーー…えっ?」
「あっ、いや、か、噛んだ…。おいしい。
すごく美味しいよ。」
(え、なんだよいちいち可愛いなぁもう、あざとすぎ…)
白米と卵だけでできたシンプルなお粥。
その素朴さの中に感じる絶妙な味わいから、速生の料理スキルの高さ、そして、深い優しさを感じてしまう。
「お粥、久しぶりに食べたけどーー…こんなにおいしいなんて。
……速生、すごいな」
「おっ、おう………。
ーーー…だろぉ~?さっすが俺。
いいお嫁さんなれそう?」
「あはは……そうだね、お婿さん、な」
「婿入りかよ~。あ、…じゃあ夕人ん家に挨拶行かないとだなぁ~?
“お願いします!僕をもらってください!”って感じ?」
「ははっ、なんだそれ。
父さんと母さん卒倒しそう……」
そう言って冗談めいて笑いながら、夕人はたまご粥をゆっくりとひとくちずつ、食べ進める。
速生は静かに、目の前の夕人を見つめる。
静まり返った部屋の中でも、食器の擦れる音や咀嚼音をまったく立てることのない綺麗な仕草は、できた行儀を感じさせ、そこには一層、彼の品性の良さが漂う。
それは特段気をつけているようには見えず、元々染みついたものだろうと思えた。
こんな風に近づけば近づくほどに感じる、夕人を形造る小さな一面。なんだって知っていると思っていたが、まだまだ知らないところもきっと沢山あるのかも知れない、それを知ってゆけることがとても嬉しいのだ。
彼が本来であれば寄せ付けることのない、パーソナルスペースへと自分を少しずつ手招いてくれているようで。
やっぱり、ちゃんとしないといけない。そう心に固く、投げかける。
「ーーあ、あのさ。
その………、挨拶ってやつ、冗談抜きで。
夕人、次の三連休……あるだろ。予定は?」
速生はごほん、と咳払いをしてから、真面目な表情で目の前の夕人を見つめる。
「えっ……?三連休?
あ、いや、特には無い…けど」
あまりの突然の速生の真剣な顔に、右手のスプーンを思わず器のなかに置き食べることを止める。
「うん、あの。
ーーやっぱり、きちんとしておきたくて。
俺、夕人のおじさんとおばさん……いや。お父さんとお母さんに、ちゃんと俺たちのこと話したいんだ。
それで理解ってもらえてから。
一緒に住むのは、それからかなぁって。
ーーーずっと、考えてたんだ。」
「……………」
夕人は黙った。
これまでの5年間、何かと理由をつけながら近寄りすらしていなかった、父と母のいるあの家。
速生と決別したことを理由に帰られなくなっていたあの家に、いま、やっと帰る時がきたのか……それは感慨深く、そして同時に、本当に、とても怖くて。
どんな風に話せばいいのだろう。
自分たちのこの関係を。
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