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23歳・白露 ー愛するひとー
2.▽-4-
しおりを挟む「……………」
突然胸への愛撫をぴたりと止め顔を上げる速生。
潤んだ瞳に赤らめたとても情けない表情で、じっ、と見つめる。
(夕人、今、言ったよな…?…『俺も好き』って……。
……い、いま言うの?いきなり?マジで?)
「…………?」
それは、夕人にとって本当に無意識のうちに口から出た言葉だった。
なぜ速生が動きを止めたのかまったく読めない様子でただただ不思議そうに見つめ返すーー…その、きょとんとした可愛らしい顔を。
ただ、黙って見つめる。
(なんだよそれ、ここで言う?
無意識かよ?不意打ちのプロか?
一周回って上級テクニックじゃん、なんだよもう………もはや末恐ろしいわ。
もう、本気でやばい。
ーーこのままだと、本当に骨抜きにされる。)
まるで突然、砂糖でコーティングされた飴玉を口の中に放り込まれたような気分だった。それはもう頬が落ちそうなくらい甘く甘く、頭の中までとろけてしまうほどに、渇いた喉には刺激が強すぎて。
結局のところ……どれだけ優位に立とうとしたって、振り回されているのは自分だと思い知る。
嫉妬と束縛、しつこいくらいの愛の確認。
時に試してみたり、
駆け引きや、飴と鞭も全部。
彼の前では、すべて、無駄でしかないのだ。
いま自分に出来ることといえば、ただ、このひとを、
全身を捧げるほどにすべてをかけて、ただひたすらに、真っ直ぐと愛することーーー…
それがすべてて、共に在るための術ということ。
彼を、いま、目の前のこの愛するひとを、
はかる様な真似は、決して許されない。
ああ、もう、きみにはお手上げだ。
「…………ずるいよ…夕人…」
「えっ………?」
ーーグイッ!
「あっ…!」
肩を思い切り掴み、夕人の身体を膝の上から退かしソファの端へとドサッと落として押さえ込む。
「も、いいや…好きにさせてもらうから。
ーーじゃあニット脱ごっか……?はぁっ……。
ほら、腕通して……」
「はぁっ?なに言っ……あ、あっ、待っ……!
や、脱がさなくて…いいっ……
ばかっ…離せって!」
鎖骨のそばで掴んでいたニットの裾を今度は下へ下へと引っ張り抵抗する。
「なに?えぇ、着たまましたいの?
なんかそれはそれでやらしいけど……、
やっぱダメ。
全部見たいからーーほら早く」
「あっ……ぅ、っなっーーんんうっ!」
するするっと頭から抜かれ無造作にラグの上へと放られるリブ編みニット。
またすぐにソファの座面に、うつ伏せの状態で肩を押さえつけられる。
衣服を剥ぎ取られ丸見えになった細く華奢な背中をじっ…と見つめて、「はぁ…」とせつない息を吐く。
ーーーあぁもう、なんて綺麗なんだろう?
有無も言わさずまた吸い付く。背後から首元に顔をうずめて、耳の後ろと頸に鼻を擦り付け,いとしい香りをひたすら堪能する。
ーーすんすん、はぁ…。自分の匂いを嗅がれていることに気づき夕人は赤面すると、「やめろ…ばかっ」と小さく訴え後ろ手に抵抗しようとするが、まったく動じない速生の様子に、抵抗するだけ無駄だと悟り諦める。
「はぁ、いい匂い。…夕人…。
大好きだよ…もう、ずっとこうしてたい…。
夕人、 もう一回…『好き』って言ってよ…なぁ」
「いや、だっ…こ、のヘンタイっ……!
あっあっ!」
「まだ言うの?わるい口だなぁ………。
お仕置きするよ?」
背後から覆い被さったまま、つややかな肌に指を滑らせる。背骨のラインを上からつつー…っと辿り、薄い皮膚を掌で撫でて細腰を掴んだ。
グイッと持ち上げる。
「ーーあっ!」
腰を高く上げた四つん這いのような格好をさせられ,思わず背後の速生に目をやろうとしたが瞬時にびくんと驚いてしまう。
「夕人、キスしよーー…。」
すぐそばに身体ごと覆い被さってきた速生の顔が見えたかと思うと、肩をつかみ引いて顎を上げさせられーー…すぐさま口内に舌がぬるりと侵入してくる。
ソファの肘置きと背もたれの隙間に押さえつけられる強引なキスに、こんなに広い部屋の中でどれだけ窮屈な格好が好きなのだろう、と疑問に思いながら、ひたすらに唇と舌を吸われ続ける。
「んっ、んん、ふぁ…っ…はっ…
ん…はや、っみぃ…ぁう、
くっ、苦しぃ……ぅっ…
ん、!っ……ふぁ」
「ん、好き…はぁっ夕人……なぁっ、
もっとこっち向けよ……はぁっ
はぁっ……舌出せって、届かないよ…」
二つの濡れた唇。舌先からはどちらのものともいえない唾液が滴り、速生の荒々しく求める動きのせいで少し離れてはまた絡みつきその度に、溢れ出た雫がソファの座面に落ちるが、そんなことまったく気にも留めず口づけを交わし続ける。
ソファに押さえつけられた片頬とこめかみが痛くてどうにかなりそうで、つい、息と共に口内に流れ込んでくる唾液を”んくっ”と飲み込んでしまう。
キスをやめた唇はまた頸へと戻り、耳の周りを撫で始める。
「はぁ、はぁ……っ、ゆうと…
好き、…はぁ…っ好きだよ…」
愛の言葉とともにわざとらしく、ぴちゃ、ちゅう…といやらしい音を立てながら舐め回し、はぁ、と吐息をかけられた夕人の身体の奥からは、ぞくぞくと身震いが起こる。
「ーーーんっ…!」
「ほら…こっちも、もう、キツいだろ?
ーーベルト外してやるから、ほら、脱いで……」
「~~~~……っ…」
背後から回した腕に慣れた手つきで革ベルトを外しループから抜く仕草に、こいつなんでこんなに手馴れてるんだ?ひとの服脱がす練習でもしてんのかよ?と恥じらいとともに何とも言えない腹立たしさが湧き上がり、黙ったまま背後に向かって睨みをきかしてみるが、その顔を見た瞬間に「ふっ」と笑われたかと思うと唇へ、チュッと口付けられる。
その余裕ぶった表情からは、『子猫ちゃんが威嚇したって怖くもなんともないよ。』と言われてるような気がして。
ーー悔しい。だけど、これ以上、言い返せないしやり返せない。
結局、手籠にされてしまうんだ。
それなのに。
情けないほどに、この状況に安心しつつ身を任せていたいと思っている自分がいる。
ーーーダメだ、俺。
なんかもう、いろいろ……ダメだ。
疲れた、否定するの。
恥ずかしいし慣れないしやっぱりこんなこと受け入れられるなんて、自分でも信じられないけど。
もういいや、何でもーーー……。
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