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23歳・白露 ー愛するひとー
2.▽-2-
しおりを挟む「………………っ!…」
膝の上に座る夕人の動きが、一瞬止まる。
ーーープチ、プチ、プチ…ッ…
速生の手でゆっくりと、静かに……ワイシャツのボタンが外されていく。
「ん、っ…!…は……っ…~~~~っ…」
「ん……ほら、ダメだよ、やめないで…。
ちゃんと、はぁ……っ舌、出して」
そう言いつつ、すべてのボタンが外し終わったシャツの端を摘んで、腕を通し脱ぐように誘導する。
「ん、んっ……ぅう…………っ」
少し混乱気味に、夕人はもう一度目を閉じて、言われるがままにキスを続ける。
考えるのは、難しい。
受け身でいられることがどれだけ楽であったのか、と思い知ってしまう。結局、されるがままになってたまるかなんて思っていた怒りはどこへやらーー…。
目を開けたまま、顎を少し上げ“キスを続けてよ”と欲する素振りで、口内に少しずつおずおずと、恥じらいとともに侵入ってくる夕人の舌を優しく吸ってやる。
「ん、っん、ふっ…んぅ、………」
れろれろ、ちゅ…、唾液を絡めて、吸い、歯を当てて、優しく。
“いいよ、上手。”
褒めてあげるように。
少しずつ、少しずつ。
主導権を自分へ移していく。
肩に置かれた微かな体重を掛けた手のひら。
もっと重心を掛けて寄りかかればいいのに、戸惑いのあまり、どうすればいいのかわからないと伝わる行き場のない様子がまたいじらしく、いい加減慣れなよ?と、言いたくなる。
上から手を添えて、指先を優しく握る。
それだけでびく、と震える反応に、もう、やっぱりいつまでも慣れないままでもいいかも、と愛らしさに胸がきゅう、と鳴る。
指を絡めてそのまま下に降ろし,細い手首を掴み袖口から腕を抜かせ、遂にすべて脱がされたワイシャツは床へとぱさり、と放られた。
抵抗しない様子を見るに、もう観念しているのか、それとも、もしかして待っていたのか?
きちんと小さな舌で、まだたまに震えつつ必死に、唇を舐めなんとか自分の愛撫を真似ようと勤むその姿が。
愛らしくて、いじらしくて、もう、堪らなくて。
ぞわぞわ、どくどくと、快感と興奮の波が押し寄せる。
(ああ、可愛い。
好きだよ、夕人。ーーでもまだ、言ってあげない。
ほら、もう少し…頑張れ)
薄手の黒いニット1枚。
首元まで続く縦模様の細いリブ編みのそれは、青白い肌の華奢な夕人にとても似合っていて、別に着せたままでもいいかも、なんて、脱がすのが躊躇われてしまう。
だけど、まるで、最後の防御のような。
必死で守るように隠されたその服のなかの……
この前自分がたくさん付けたしるしを、早く目にしたくて、我慢できなくて、うずうずしてしまい。
つい、静かに,夕人に気付かれないようーー…腰部分の、ニットの裾に手を当てた、その時。
「んん、‼︎」
驚きのあまり夕人は全身をビクンと震わせ、その拍子に…
速生の下唇をガリッ!と強く噛んでしまった。
「ーーー………いっ、てぇ……」
口の端に鋭い痛みを感じ、思わず速生は右手でその噛まれた箇所に触れた。
「あっ、あの、…ごめ………っ、ごめん、わざとじゃ…」
じわり、と血が滲んでいるのが見える。
夕人は慌てて速生の唇に目をやり、急いで謝った。
結構思い切り噛んでしまった、どうしよう、と、とても情けない顔をしながら。
「ふぅん……。
いま、俺のこと噛むなんて……
ーーーいい度胸じゃん……?」
唇に滲んだ血を指で拭い、そう言ってぎらりと睨む速生に、夕人はびく、と怯えた表情で、ちがう、と首を横に振る。
「やっだから、わ、わざとじゃない……って、…
ーーーんあ!」
ーーーグイッ!
後ろ頭に手を回し鷲掴みにするほどの勢いで引っ張られ、強い振動に夕人は声を上げてしまう。瞬時に、速生の唇によって口を塞がれた。
「んんんっ‼︎ーーっん、ーんんぅっ!」
息を吸う間も与えてもらえず、半ば無理やりに速生の舌が侵入ってきて、上顎や舌先を強く吸い取るように、奥まで、激しく口内を掻き回される。
「~~~っぅ、っ…んぅ、ー!~~~~っ!」
頭を動かそうとするも、後頭部に伸びた速生の手のひらが頸の上を掴むように荒々しく、引き寄せるようさらに強い力が加わり、どうしようも無くただされるがままに。
自分が負わせてしまった口端の傷から滲む血の味が、じわじわと、少しずつ、口内に広がってくるのがわかる。
ーーー血の味がする、速生の……、どうしよう、絶対、怒ってる。
怖い、せっかく少し優しくしてくれてたのに、また、痛いことされるかもしれない。
どうしよう。
「んーっ!んっんっ!
んぅっ、……っぅ…」
ーーー苦しい、息できない、
無理……
くらくら、する……
苦しさのあまり意識が遠のきそうになり、瞳からは大粒の涙が溢れてくる。
“苦しい、息継ぎさせて”と目を細めて必死で訴えるも、まったく届いてない様子で、速生の舌がどんどんと、口内の奥へとぢゅる、っちゅ、ちゅう!と激しい音を立て吸いついてくる。
まるで口の中を犯されてるような気分で、震えながら身体中に湧き上がるのは、これから起こるであろう情事への、恐怖、そして、ぞくぞくと全身を覆う、ーー言葉にできないほどの、情欲。
「ーーふっ、はぁっ!
は、っ…はぁ、っ
ぅ、ーーげほっ、!…こほっ、」
やっと解放された口、突然入ってくる空気に喉が詰まりそうで呼吸が整わず、夕人は苦しそうに咽せて咳き込む。
「はぁ、…苦しかった?ごめんな…でも、夕人が悪いんだよ。
ーーほら、まだまだ、終わりじゃないぜ?」
ーーーグイッ
まったくもって悪びれてない顔でにやりと笑うと、速生は夕人の腕を強く掴んだ。
「ほら。
自分でそのニット捲って、俺のつけたキスマーク見せて。ーーちゃんと、全部」
「はぁ、はぁっ…、え…?
な、っなにそれ…
…なんで、そんな……っ」
まだ呼吸が整い切らず息を漏らす夕人は、速生の突然の要求に戸惑い“無理”と小刻みに首を横に振る。
「”なんで”?……ちゃんと付いてるか見たいからだよ。
夕人が俺のものだって、刻印。
早く、ほら。
ーーーじゃないと信用できないよ?いいの?」
「~~~~っ~~………」
瞳に涙をたくさん溜めて、俯きどうすればいいのか考えるが何も思いつかず、いまの自分には他に選択肢など残されていないのだと思い知るだけで、夕人は唇を噛み締めた。
「できるよな?
ほら、ちゃんと、見せてよ。
ーーー全部な」
だけどふと、少し冷静になった頭の中に浮かんでくる。
こんなにも辱められる義理が何処にあるのだろうか?と、反論しようか、と考える。
「………っ、…………~~~~…っ」
ーーけど、結局。
言われた通りにしか出来ない、と諦める。
それが、”惚れた者の弱み”ということなのだと。
言われた通りにしないと、信じてもらえないのなら、仕方ないんだ、と。
嫌われたくない、見放されたくない。
だって、速生のことが好きだから。
自分でも信じられないほどに。
怖いくらい、愛してしまっているから。
ーーー仕方ないよ。
そう、
自分に言い聞かせる。
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