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23歳・白露 ー愛するひとー
2.▽-1-
しおりを挟むーーーちゅ……
もう一度、まるで小鳥が啄むように。
震えながら当てる。
「……っ………」
静かに、小さく、ふれるだけのキス。
少しだけ温度を感じた速生の渇いた唇は、いつもとは全く違い身じろぎもせず、ただ、待っているということがわかる。
優しいキスくらいでは許してくれないということが見なくても伝わってきて、さらに、困ってしまう。
「………………」
顔を離し、瞼を上げた夕人は驚く。
滲んだ視界に薄らと入るのは、しっかりと目を開けて、強い眼差しで自分を見つめる速生の顔。
ーーー目、閉じろよな……、ばか………
むかつく、バカ、この変態、
エロ速生…っ……むかつく、その顔……っ
自分をじっとり見つめるその余裕ぶった表情に、腹立たしさのあまりにいろんな恨み言が心を覆うが、口に出したら更に何を要求されるかわかったもんじゃない……と、目で睨みをきかす、細やかな抵抗。
「……なに?
そんな目で見たって、何も伝わらないぜ?夕人。」
「………っ、ーーー…………」
言われるがままにしか出来ない自分に感じるのは、悔しさ、言葉にできないもどかしさ、情けなさ…… 。
だけど。
ーーーなんで、わかってくれないんだよ、バカ………
結局のところ、ただ、信じて欲しくて。
速生以外の誰かになんて、興味もないということ。
独占欲に塗れた愛を、常に、ひしひしと感じる中で、
鬱陶しい、と思うことはあれど、その想いに応えることを煩わしいなどと感じることは無いのに。
速生のその存在が、こんなにも自分の中を占めているというのに。
どうしてわかってもらえないんだろう。
きちんと信じて、『俺のことだけ、見てるんだろ?』『大好きだよ。』と、優しい瞳でみつめて、大きな手のひらで頬を撫でて欲しいのに。
ーーーだけど。
速生から感じる、時に捻じ曲がったように注がれる異常なほどの愛情。
嫉妬、焦燥、束縛。
疑いから生まれるどろどろとした、憎悪ですら。
それらによってどんどん支配されていくことへの恐怖と同時に、感じるのは……
愛されていると実感する、
恍惚に似た、満たされた全身を包む、安心感ーー。
ーーやっぱり、俺、どこかおかしい。
速生のせいで、どんどん、おかしくなっていく。
こんなおかしな自分、知らない。
もういやだ、怖い。
どうしようーー……
どうすれば。
(ーー夕人からキスしてくれるの、何回目だっけ。
1回目は、俺から“してよ”ってねだった、5年前のあのクリスマスの少し前。
初めて夕人が俺の部屋に来たあのとき、冗談のつもりで『キスしてくれたら帰っていいよ』なんて言ったら本当にしてくれたんだよな。
懐かしい…可愛かったなぁあの照れ照れの夕人。初々しくて……。今よりもっとツンツンしてて。ーーいや今も可愛いけど。)
頭の中で遠い記憶を思い返しながら、いとしさを噛み締め、あえて自分を昂らせるよう、じわじわ、ぞくぞくと。
身体中に“まだまだ、待てよ”と言い聞かせる。
これからやってくる甘い蕩けるような時間を、ひたすら、待ち望んで。
(2回目は、この前。
あの日ーー…俺のアパートの玄関で。
ボロ泣きの俺に……自分から、まさか酔っ払った夕人からあんなことされるなんて…びっくりしたなぁ。あれ、酔った勢いじゃなくて良かった。
正直あの時はもう必死すぎて、記憶は所々に途切れてるけど。でも一生忘れないだろうな……夕人から初めて、俺のこと、『好きだよ』って。『一緒にいて』、ってお願いされたーー…。)
ひたすらそんなことを考えながら、口づけを終えて、様子をうかがうように少し目を開いている夕人の顔を、しっかりと、じっくりと見つめる。
「……………」
“もういい?”と言いたそうに、こちらの言葉を待っている。
いやいや、甘いよ。
まだまだ、これからだろ?
「ーーーえっ、終わり?
まだ全然、伝わらないけど?
夕人、真面目にやってる?」
「~~~~~……、っ……」
「ほら、その口開けてーー…どうするんだっけ?
いつも俺にどうやってされてるか、忘れたの?」
「っ……バカ、さ……いあく……っ、…
……っーーーー……」
夕人はもう一度目を閉じる。
「…………っ、……ん……っ…」
口を開けて小さく舌を出し、速生の下唇を“れろ…”と舐めた。
濡れた小さな舌が、戸惑いながら、少しずつ、唇の縁をたどる。速生は敢えて閉じていた口を少しだけ開けてみる。
ちゃんと自分から,入ってきてよ?いつも俺にされてるみたいないやらしいディープキス、真似して、ほら。
……そう誘うように。
(あぁ、夕人。うわ、まつ毛長い…震えてる。俺ががっつり見てるの、気になるのかな?
可愛い、ゆうと。
ああもう、瀬戸さんとか、なんかもうどうでも良くなってきた。いや、よくないけど、でも、もう、焦らさなくていいかな、押し倒してやろうかな。
いやいや、だめだよ俺、こんなチャンス二度と無いんだぜ?
夕人からこんな、俺の膝の上で、可愛いくて、いやらしいキスーーー…
まだまだ意地悪なこと言っていろんなことしてもらいたいんだから、ほらもう、焦って戸惑ってる夕人の顔、超可愛い、やばい。
待て待て、おさまれ、俺の息子ーーー)
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