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23歳・白露 ー愛するひとー

2.悔し紛れの“ふーんへぇー”

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ーーープルルルル……

『もしもし。
あぁ、相模くん?……こんばんは。』


約2ヶ月ぶりに聞いた,瀬戸の落ち着いた声。
その変わらず柔らかい声色から、緊急性は無いのかも?と少しだけ安心する。


「もしもし、あっ、こんばんは……。
すみません瀬戸さん、電話いただきました?」


(………ふーん、へぇーーー…。)

すぐ隣でじとぉっ…と見つめてくる速生の視線に気まずさを感じ、背を向けて、話す夕人。




『うん、突然ごめんね。
ーーあ、は、ありがとう。少しの時間だったけど、楽しかったよ』


ーーーピクッ


「………………」


静かな部屋の中、瀬戸の話す落ち着いた低音の声は、受話口から速生へとだだ漏れで届く。


背後から,異様な雰囲気を感じ取った夕人は冷や汗をかき、なんて返答するか迷いながら続ける。


「い、いえ。その、まあ、……こちらこそ。
あの、何か急用ですか……?」


『あぁ、いや実は今さぁ、俺、院の先輩と一緒にいるんだけど……。
ーーーあっ、いま電話、大丈夫?』


「え?あ、はい、…少しなら……まあ…」


ーーー長電話なんてできるかよ…瀬戸さん、早く要件を言ってくれないかな、

もはや怖くて後ろ向けないし…………。



『いやね、実はその先輩が、油彩画専門のデザイン教室を開くみたいでさ。
その人が、相模くんを講師として誘えないかーーって…ちょっと口聞いてくれないか頼まれててーーー。』

「えっ?あ、そ、そうなんですか……。」


思いの外仕事関連の内容の電話であったことに少しだけ安心する。

『相模くんて、確かS区辺りに住んでたよね?
俺たち、いまたまたま近くにいて。
もし、良ければいまから食事でもどうかな、と思ってねーーー…予定、どうかな?』


突然の誘いに、夕人は思わず「えっ」と声を出す。


瀬戸の後ろからは街中の喧騒のようなざわめきが聞こえており、明らかに屋外からの電話だろうとわかってはいたが、まさかいま、瀬戸さんが、自分の家の近くにいるとはーー。

話の流れでこの辺りに住んでいることを話したことはあったが、本当に取り留めてもいなかった。


(はぁ~~~?夕人、家まで教えてんの?
……ふーん。そう、へぇ~~~。
はぁーー…。)




思った以上に突拍子の無い瀬戸の行動に、速生から発せられる異様な雰囲気は、さらにぞわぞわと背後を襲い……余計に冷や汗が滲んでしまう。



「あの、こ、これから…ですか?
あ、いやその、今は、ちょっとーーーー…

………っ‼︎」




ーーーちゅっ…



その時、夕人は声を詰まらせた。

それは、本当に、突然。

電話中だというのに、背後から速生の腕に肩を掴まれ……その瞬間、首筋に吸い付かれていたからだ。

「ーーーーーっ……⁉︎」


ーーーえっ?速生っ……?おまえっ、何やって……!
電話中だぞ!?

そう言いたくとも言葉にはできず、視線を斜め後ろに睨もうとするが、首元の速生の顔は見えない。


ーーれろ、ちゅ、ちゅうっ… 

「~~~~~~!……っ…‼︎…」

スマホを当てた右耳と反対側の、左耳。
速生の生温かい吐息がかかる。

ぬるり、ちゅうっとうなじから耳朶みみたぶへ、唾液でいやらしく濡れた舌で、わざとらしく舐めまわされーー…

びくっ!と身体を震わせて、「…ぅっ、…」と思わず吐息とともに声が出てしまい夕人ははっとして口を片手で押さえた。








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