アイオライト・カンヴァス 【下】【前編完結済み】

オガタカイ

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23歳・白露 ー愛するひとー

2.ノンカフェイン・ノン目覚まし。-1-

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「……………」


「……………」


謎の沈黙。
なんでこんなに気まずいんだろう?とお互いに、ピリピリと少し張り詰めた空気のなか、どちらが先に口を開くのか待っている。


「…………あっ」

思い出したように夕人が声を上げる。

「………???」


「…ごめん、よくよく考えたら、俺コーヒー飲まないんだった。ちょっとダメで。
紅茶か、ハーブティーしかない…どれがいい?」


母さんが送ってきたやつなんだけど、とこれまた高級そうな缶ケースの蓋をパカ、と開けて、中のドリップタイプティーバッグを速生に見せる。


「あ、じゃ、俺、自分でやるよ?」

(ハーブティーなんて、飲むことないし……どれが何なのか違いもわからないし……)


速生はそう言ってキッチンのコンロ前に立つ夕人に近づいた。

ハーブティーの缶ケースを受け取る。
北欧のメーカーもののようで、可愛らしい動物のイラストが入っている。


なんだかある物全てが一々お洒落で、ここに住む夕人の印象が一層、特別感を増していく。



「……夕人、なんでコーヒーだめなの?」


横並びのシステムキッチン。
隣に立ったまま、速生は問いかける。


「え?あ、ああ……。
胃にっていうかーー…あと、夜寝れなくなっちゃうじゃん?俺、朝、ただでさえ起きれないのにさ。
……遅刻予防だよ」


「はは、お子ちゃまゆうと。」



「うっ、うるさいなぁ。
けど、これからは大丈夫だよな。
速生が起こしてくれーーー……」


何も考えずに口から出た言葉に、思わずはっとして黙る夕人。


「………………………」







「ーーー…毎朝,起こして良いの?直接?
それ、の…………返事、ってこと?」


「………………」



速生が夕人を見つめる。

潤んだ瞳で、嬉しそうに、だけどまだ期待はできない、と少しだけ恐る恐る、うかがうように、自制しながら。






「…………………」



ーーーやばい……俺、何言ってんだよ……。
いまこんな流れになるとか…ただでさえこの雰囲気、もう居た堪れないのに……

“はあ?何言ってんの意味わからない”って適当に返そうかな…


赤面しつつ動揺しながらちら、と視線を斜め上に向けてみると、
すぐ至近距離でじっと見下ろす速生の真剣そうな表情と、強い視線が刺さる。


早く、早く、返事してよ、YESだよな?そうだろ?と目が訴えている。


ーーーうわ、重っ。いま誤魔化したら、さすがにやばいかも……?ど、どうしよ………


そのあまりにも熱のこもるまっすぐな眼差しに捕らえられてしまい、
首から上が火照って仕方なくて。






ーーーこいつ、なんかまた背伸びた?こんな近くで上から見下ろしてくんなよな……感じ悪い……
ていうか、こんなにガッチリしてたっけ。肩幅とか、俺と違いすぎじゃん、何食ったらそんなんなるんだよ。
てか、なんか、圧がすごいんだけど?
口が滑っちゃっただけなのに……もはや怖いよ、その目、一緒に住まないと監禁するぞ?って脅されてるみたいだよ。
こういう時こそ得意の営業スマイルかましてみろよ、そんなギラギラした目でストレートにきくんじゃなくってさぁ、もっと、なんかこう……話術とか、あるじゃん…?…速生……、バカ速生………。


「…………………ーーー…」




ーーーていうか、そもそもまず決めることあるだろ?
家賃は折半?名義はだれ?間取りは?家具家電買い直す?
………場所は?
俺の学校と速生の会社のあいだにしない?

そしたら2人とも毎朝、同じくらいの時間に家を出られるよーーー…?





いろいろな言葉と想いが飛び交い忙しい頭の中、冷静な判断力など持ち合わせておらず。

もう、あれこれとややこしいことを考えるのは、しんどくなってきて。


『もういいや』、と、とにかく思いのまま、顔を赤らめたままーーー…




夕人は“こくん”、とただ首を縦に、小さく頷いた。





 
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