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23歳・白露 ー愛するひとー
1.S区立学園高校、応接室
しおりを挟むーーー…
「ーー…では、こちらでお取引の方進めさせていただきます。今後とも、どうぞお付き合いの方を……」
速生はタブレットに表示された注文案内書の画面を、目の前のS区立高校事務長が満足そうに頷いたのを確認してから閉じた。
「ええ。こちらこそ、これからよろしくお願いしますね。
ーーそろそろ校長の方が参りますわ、このまま、もう少しお待ちいただけます?」
ラメ入りのツイードジャケットスーツを身にまとう、この高校の事務長を担う年配女性は、応接室の壁に掛けられた時計に目をやる。
応接室のどっしりとしたローテーブルの前。
ソファに腰掛けている速生は、まだ、どこか実感が湧かず……。
営業マンとしてこういう場にはだいぶ慣れてきたとはいえ、こんなにも大口の契約取引に1人で駆り出されることなど本当に初めてで。
緊張感を拭いきれず、目の前の机の上に置かれた,高級そうな湯呑みに淹れられた薄緑色のお茶をじっ、と眺める。
「ーー玖賀さん。お茶、いただいてくださいね?
その茶葉、私が校長に頼んでお取り寄せしていただいたとても良い物ですのよ。
お客様にしかお出ししない特級品なんだけど、実はあのお茶で有名なxx県の山麓で作られた、天然水を使用したーーー……」
ペラペラとお茶へのこだわりを話し続ける事務長の熱意に圧されつつ、速生は「はい、はい、へぇ~それはすごいですねぇ~」と営業的相槌を笑顔で繰り返す。
(ーーーなんだかこの事務長さん、権力凄そうだな。
お茶にまでこだわって…というか、校内の客出し用の物って学校の備品だよな?経費で…
お取り寄せーーー…?それって、アリーー?)
ふれてはいけない何かに気づいたような気がしつつ、速生は湯呑みを持ち一口お茶を啜ると、「うわっ、本当だ、すごく美味しいです」と笑顔で答えた。
とても満足そうな笑顔の事務長の表情。
ーーーコンコンッ
ガチャ……
「ーーー失礼しますよ。
遅くなってしまってすまないねぇ、あ、事務長さん、もう契約の方は終わりましたかね?」
やあやぁ。と言いながら軽やかな足取りで応接室に入ってきたのはーー…この高校のボス、いかにも、釣り好きのあの校長。
おろしたてのパリッとしたスーツを身に纏い,カチッと頭を固めた気合いの入った姿でキラリと白い歯を見せて笑う。
「校長先生、遅いんですものぉ。
とっくの昔に終わりましたわ、こちらの営業の玖賀さん……もう既に注文書のリストほぼ作ってきてくださってて。
お仕事が早くて助かりますわぁ。
ーーでは、私はこれで失礼いたしますね。」
そう言うと、事務長は颯爽と退室して行った。
高級ブランドの香水の残り香だけが応接室にとどまる。
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