アイオライト・カンヴァス 【下】【前編完結済み】

23歳・白露 ー愛するひとー

1.営業２課・速生の憂鬱

「おはようございまーす！」


週明け。
清々しい顔で出社した速生は、営業課のオフィス内に入りデスクへと向かう。


「お、玖賀くんおはよう、今朝はまた一段と元気だなぁ。何か良いことでも？」


隣のデスクに座ってPCを開いていた2期年上の先輩から、声をかけられる。


「えっ？いえいえ～～わかります？
まあ…その、いろいろと……うふふふ」


一昨日行われた夕人との情事のあんなことやこんなこと……
そして、意を決して申し込んだ“一緒に住もう”という言葉へ対する、かなり好感触と思えるほぼほぼOK寄りな夕人の反応。（多分……）

思い出すだけで顔がニヤニヤとしてしまう速生は、全身から幸せオーラが溢れ出る。


「そ、そう……それは良かった。
それはそうと…玖賀くん。
ーーー部長がお呼びだよ？」

「えっ！？」


速生の気持ち悪めなにやけ顔へ引き気味に、先輩は突然の爆弾を投下した。


「っ！？……ぶ、部長、ですか……？
えっ？？
あの、僕………何かしましたかね？」


「さぁなぁ……怒ってはなさそうだったけど？
“営業2課の玖賀くんが出社したら即部長室に来るように。”との伝言だよ」


「ひえええぇ…朝っぱらから、嫌な予感しかしないじゃないですか。
了解です。ちょっと、行ってきます……」


“ファイト”と先輩は苦笑いする。


速生は”ふぅーーー。”と細く長いため息をつくと、営業課のオフィスを出て部長室へと向かった。




ーーコン、コン…


「失礼します……」


「おはよう、営業2課の玖賀くんだね。
すまないね、朝から呼び立てて……まあ、そこに座ってくれるかな」


「えっ、いえ！とんでもないです。
あの、では失礼します………」


速生は恐る恐る、部長の目の前のソファに腰掛けた。見るからに高級そうなふかふかの椅子に身体が少し沈んで、とても居心地が悪い。


新卒2年目のまだまだ下っ端社員の速生にとって、この本社の量販営業部の長おさに君臨するこの部長は、正直天の上の人と言っても過言ではない。

彼の一言で昇進、もしくは左遷異動が決まり、その印象づけによっては今後のボーナス査定にまで影響してくると専らの噂だった。



（立ったまま話を聞く方がよっぽど楽なんだけどーーー…
…一体何なんだーーー？）