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23歳・立秋 ー混ざり合い、重なるー
2.ただいまが言えないよ
しおりを挟むほどなくしてアパートの前に着いた夕人は、玄関ドアのノブを静かに下ろす。
施錠はされておらず、静かに開いて玄関へ入った。
靴を脱ぎ、そろ、そろ、と廊下を歩き脱衣所の前を通り過ぎーー…リビングへ続く閉まったドアの前。
ーーーん……?
なんだか部屋の中からは、普段普通に過ごしているような生活音がまったく響いておらず。
そして、
代わりに聞こえてきたのは……
「…はぁ………っ、…はっ、……」
ーーー!
荒い呼吸と、息遣い。
速生のいつもとまったく違う声色が耳に飛び込んできて、夕人は思わず固まってしまう。
ーーーえ………は、速生……
ま、まさか……………
「はぁっ……ぅ、っ……ゆ、うと……っ」
ーーー!!
自分の名前を呼ぶ声に、確信する。
ーーー速生、ひ、一人で………。
うわっ、ど、ど、どうしよう………
この状況でいまリビングに入っていける猛者は居ないだろう。夕人は焦りながら,なぜか真っ赤に赤面しつつ、あたふたと玄関へ戻るかどうするか考える。
ーーー俺が帰った途端に……な、なんてことやってんだよあのエロ速生……!
あ、そうだ……!
ちょっと、メッセージ送ろう、“やっぱり戻るよ”って、そうすれば俺がここにいることに気づかないままやめてくれるかも……
そんなことを考えながら慌ててポケットに突っ込んで取り出した手が、動揺のあまり震えてしまい……滑り落ちて廊下に落下するスマホ。
ーーガタッ‼︎
「ーーー‼︎」
二人は一瞬で沈黙する。
「…………ゆ、夕人………?
もしかして……そこ、に…いる…?」
震えた声に、速生がおそらくすべてを察しているのだろうということがわかり、どうすればいいのか考える。
ーーーうわああぁぁぁ………
気まずい………。
どうしよう……
気づいてないふりして入って行こうか…?
いやいや待てよ…多分いま速生、見てないからわからないけど、やつの下半身は見てはいけない状況なんじゃ……?
無理だ、入っていけない……。
と、とりあえず……
返事はしないと、泥棒と間違えられてても困るし……
「…………………うん…」
もう、うんしか言えない。
「……………………」
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