34 / 121
23歳・立秋 ー混ざり合い、重なるー
2.逃げたエリートの置き土産 ▽
しおりを挟む「…………………」
結局また、ひとりになってしまった部屋。
速生は静かに立ち上がると、キッチンへ向かう。
シンクの横、水切りには包丁やまな板、小鍋が綺麗に洗われて置かれていてーー…
その横には、肉じゃがと金平牛蒡が入った深皿が2人分ずつ、丁寧に透明な保存ラップに包まれている。
“帰ってきたら一緒に食べよう。”という夕人の想いが聞こえてくる気がする。
保温モードの炊飯器。
蓋を開けた瞬間にとてもいい香りが広がり,いままで使ってきた単身用3合炊きの釜の中で初めて見る、とても美味しそうな炊き込みご飯。
(全部、俺の好物じゃんーーー…。
わかってて?それとも、無意識?たまたま?
なんなんだよ、ほんと……)
普段料理をしないはずの夕人が、何かで調べたりしながら、悪戦苦闘しつつ、キッチンに立っている姿を想像する。
多忙な中でもなんとかして作ってくれたせっかくの自分との貴重な時間を、ひとりぼっちで半日以上も……文句も言わず,急かすこともせず待っていてくれた。
「もう、夕人。
マジで……何なの……」
もはや言葉に表せられないくらいに。
いとしさが込み上げてきて、胸が詰まるほどに。
ーーーやばい。
もう、好きすぎて、狂いそうだ。
「ああーーーー…俺の、バカ……」
こんなにも、想われているんだ、と。
不器用で恥ずかしがり屋で、こっちから要求しなければ愛の言葉など囁いてくれることなど全然なくても。
夕人が残していったこの部屋の中の、いろんなものから、深い深い愛を感じてしまう。
ベッドに向かい、ついさっきまで夕人が突っ伏して眠っていた白いシーツを指でなぞる。
まだ、夕人がそこにいるようで。
ぬくもりが残っているような気がして,少しだけ皺の付いた、シーツに顔を擦り寄せる。
いとしい香りに、身体中が酔いしれて。
全身が熱く、ただただ、求めているのがわかる。
ああ。ふれたい。
抱きたい、夕人。
「……………」
(……やばい。
めちゃくちゃムラムラする………)
夕人がここに居なくて良かった、いや良くないけど、いまもし近くにいたら、自分をまったく制御できない自信がある。
(押し倒してめちゃくちゃにしてしまう。間違いなく…)
朝、キッチンでふれあった夕人とのキスの感触を思い返す。
顔を赤く染めて、“こんなところで無理”と拒否しているように見えてーー…
長い睫毛で縁取られた瞼をきちんと閉じて口付けに応えているその様子は、無意識からくるものか……初心な反応は一周まわってあざとくさえ感じてしまって。
(嫌、とか無理、とか言いながらも、色っぽい声出しやがってさぁーーー…)
“あっ……はやみ、っ………”
濡れた声で呼ばれる名前。
(ああーーー…もう、無理………)
カチャ、カチャ……
ベッドの縁に腰掛けたまま、スーツスラックスのベルトを外す。
「………………っ…」
下着を少しずらし、硬くなってしまった自分のものにふれ、握る。
「……っ、……はぁ、っ………」
先端から滲み出た液体で滑る右手をシュッ、シュッと少しずつ上下に握ったまま動かし、快感を堪え速生の口からは小さく吐息が漏れる。
そのあいだ、頭の中で、繰り広げられる妄想。
淫らな姿で喘ぐ夕人のことを、めちゃくちゃに、犯している、自分の姿。
“だめ、っ…、はやみ…っ……”
潤んだ瞳で自分の名を呼ぶ夕人の顔を思い浮かべる。
……きっと、めちゃくちゃ可愛くて、色っぽくて、いやらしくて。
想像の範疇を超えるであろうその夕人の姿を、見たいけど、見たくないような。
自分が怖い。壊してしまいそうで。
「はぁっ……ぅ、っ……ゆ、うと……っ」
頭の中の妄想の、淫らな夕人の姿があまりにもリアルで、つい、名前を声に出して呼んでしまう。
ぐちゅ、ぐちゅっ、とどんどん右手を激しく前後に動かし、強く握り、快感を堪えぎゅ、っと目を瞑る。
(ああ……夕人。)
「っ…はぁ……っ…夕人っ……ぅ、っ…はぁ、」
………その時だった。
ーーーガタッ!
「!!」
リビングから玄関へ繋がる廊下の閉められたドアの先。
突然の物音に、速生は驚き動かす右手を止めて顔を上げた。
40
お気に入りに追加
50
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
イケメン幼馴染に執着されるSub
ひな
BL
normalだと思ってた俺がまさかの…
支配されたくない 俺がSubなんかじゃない
逃げたい 愛されたくない
こんなの俺じゃない。
(作品名が長いのでイケしゅーって略していただいてOKです。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる