32 / 121
23歳・立秋 ー混ざり合い、重なるー
2.YUTO′s kitchen -2-
しおりを挟むーーー…
『ピーーーッピーーーッ』
炊飯器から、ご飯が炊けたことを知らせるアラーム音が鳴り響く。
「ーーーー…え、うまっ!」
コンロの小鍋の中、彩り綺麗な手作りの料理。
生まれて初めて作った肉じゃがと金平牛蒡を小皿によそい味見した夕人は、その美味しさに思わず感動する。
「……美味しすぎる。俺、天才じゃん」
と言いつつも、フリーの料理アプリを発明してくれた人に心から感謝する。
なんて便利な世の中なんだろう?
料理の経験のほとんどない無知な自分でも、スマホ画面が説明してくれている写真付きの手順に沿えばプロ顔負け(少し言い過ぎ)の料理が作れるんだから。
ーーパカッ……
炊飯器を開けると、ほんのりと茶色みを帯びた炊き立てのご飯と、その上に乗った具材から、良い香りが漂う。
ーーー炊き込みご飯なんて、いつぶりに見たんだろう。
しゃもじで軽く混ぜて、こちらも一口、菜箸で味見をしてみる。
口の中に、人参、牛蒡、乾燥椎茸から出た出汁の旨味が広がる。
「……マジで美味しい………。
俺、やっぱ天才?」
1人呟きつつ、普段慣れないことをして成功すると自画自賛が過ぎるのかも、と少し照れ臭くなる。
ーーー速生、喜ぶかな。
時計に目をやると、もう既に速生が急に呼び出され出て行ってから3時間が経っていた。
ーーー昼食も食べずに出て行ったけど、大丈夫かよ?
ちょっとメッセージでも送ってみようか、と迷ったが、すぐにやめる。
こちらから急かさなくたって、少しでも余裕があるならきっとすぐに帰って来てるはずだ。
連絡もよこさないほど、忙しくしてるんだろう……と諦めて、冷蔵庫の中から見つけたミネラルウォーターを開封してごくごく、と飲んだ。
使った調理器具を洗い片付けをして、速生が帰ってくればすぐに食べられるように準備を整えてから、リビングへ向かう。
ーーー暇だな…。
「ふぁ……」
ベッドの前に腰を下ろした夕人。
自作料理の味見でお腹が満たされてしまったせいだろうか、突然睡魔に襲われ欠伸をする。
ーーーやば、眠い……。
そういえば昨日も一昨日も、あまり眠れてなかった……っけ……
今日の速生との時間を捻出するために夜遅くまで絵の製作に取り掛かっていて、寝不足が続いていた。
ーーーあ…もう、…限界…………
うつらうつらと遠のく意識に、フローリングの上に座ったまま、速生のベッドに腕と頭を乗せて突っ伏す。
「………………」
とても落ち着く香りに包まれたまま、夕人は眠りに落ちていったーーー…。
45
お気に入りに追加
52
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました

ある少年の体調不良について
雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。
BLもしくはブロマンス小説。
体調不良描写があります。
ハンターがマッサージ?で堕とされちゃう話
あずき
BL
【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ハンター ライト(17)
???? アル(20)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
後半のキャラ崩壊は許してください;;

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
【完結】嘘はBLの始まり
紫紺
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。
突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった!
衝撃のBLドラマと現実が同時進行!
俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡
※番外編を追加しました!(1/3)
4話追加しますのでよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる