アイオライト・カンヴァス 【下】【前編完結済み】

23歳・立秋 ー混ざり合い､重なるー

2.野菜よりお米より何よりもきみを……-1-

「これ、開けていい？」

速生の問いに夕人はうん、と答えて、床にしゃがむとキャリーケースを横倒しに置いた。



ーージィーー……カチャッ


開けられたそこから出てきたのは……





「ーーーお米、と……野菜？」


夕人は黙ったまま頷く。





速生もしゃがみ込むと、中身を手に取り確認する。


5kgの米2袋に、茶色いクラフトケースに入れられた玉葱、人参、牛蒡、じゃがいも。隙間なくきつきつに詰められていた。

そりゃ重いはずだ…と速生はすぐ横に座り込んだ夕人を見る。



「実は…母さんから送られてきて。
月に2～3回、もはや定期便かよって言いたくなるレベルで送ってくれるんだけどさ…食べ切れなくて」


速生は野菜を手に取る。土つきで鮮度も良さそうな、根菜メインの野菜たち。



料理を滅多にしない夕人が持て余すのも仕方ない。


「うちの母さんいまお取り寄せにハマってて、さらにそこにふるさと納税の返礼品がガンガンきてるらしくて……それを俺に送られてもさぁ。
置く場所もないし、かと言って無駄にするのも悪いから……」



よく見れば端のスペースには、真空包装された乾燥椎茸、きくらげ、出汁昆布までもがみっちりと詰められ………『こんな乾物なんて使い方わかるかよ』と言いながらぎゅうぎゅう無理やり押込む夕人の姿が目に見えるようで。

はは…っと思わず微笑んでしまった。





これを俺に消費してってこと？と、速生が見ると，照れくさそうな顔で少し黙り、俯いて、夕人は口を開く。


「その……一緒に作ったりして食べないかなって……。速生、料理上手そうだし。あ、いや、まあ俺も何か調べたりすれば作れるけど。
ーーー外に食べに出るのもいいけど、その方が、その、まあ……二人で、ゆっくりできるかなってーー…」


顔を赤くする夕人。

すぐ近くでこちらを見つめている速生の視線がひしひしと伝わり、なぜか横を見られない。



「…………」



ーーーやばいどうしよう、自分で言っといて超恥ずかしくなってきた…普通に『これ使って何か作ってよ』とか言えばよかった。
ああもう、何なんだよこの沈黙？こういう時に限って黙んなよ速生、ああもう…なんかむずむずする。帰ろうかな…。




ぐるぐるとそんなことを考えていると、スッと横から速生の手が伸びてきて、肩を掴み引き寄せられた。
　　



「……はや……」


ーーーちゅっ…



優しく口付けられる。



唇を離して、見つめ合うキッチンの前に座り込んだままの2人。