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23歳・立秋 ー混ざり合い、重なるー
2.陽射しの下、向かう逢瀬
しおりを挟むーーー…
「よし、準備ok」
マンションの自室、キッチン横のパントリー収納の前。
床に置いたキャリーケースにあるものを詰め込んだ夕人は、蓋を閉める。
ゴロゴロ、と床を少し転がしてすぐに、“賃貸マンションなのに傷がついたらやばいかも、”と思い慌ててハンドルを持ち上げた。
「げ、重いな……。
ーーーーま、いいか」
ひとり呟いた後、頑張ってキャリーケースを玄関まで運び、室内のエアコンと電気を消して戸締りをした。
ーージーワジーワジーワジーワ…
「あっつ……」
外に出た瞬間、初夏を感じさせるきつい日差しが頭上を照りつける。
ーーそろそろ必要かと思って買っといてよかった。
この前出先でふと見かけて購入した黒のバケットハットは、肌触りもよく通気性に優れていてなかなかのかぶり心地が気に入っていた。
深めに被り、真っ白なコットンにリネンブレンドの長袖シャツを羽織る夕人はUV対策も万全だ。
子供の時から変わらずいまも、夕人の白い薄肌は紫外線にとても弱く、少しでも照りつける日差しの下にじっといようものなら数時間後には真っ赤に変わり、数日間火傷のようなヒリヒリと刺すような痛みに苦しみ続ける。
自然と日焼けをしないよう気をつける生活が身についていた。
ーーー早く、着かないかな。
ただそれだけ思い、ゴロゴロ…とキャリーケースを引きながら駅へ向かう。
『ピンポーン』
ーーーガチャッ
一応鳴らしたインターホンのあと、
本当に少しも待たせずに一瞬で開くドアからは、待ち遠しかったという思いがぱぁっと伝わってくる。
「……おはよ」
「……ん。」
速生はドアを開くと、とても嬉しそうに夕人を見て微笑んだ。
「……荷物多いね?」
ドアを片足でストッパーのように止めてから、夕人の持ってきたキャリーケースを手に取り「入ってよ」と招き入れる。
「どこの芸能人がお忍びで来たのかと思った。
ーーースクープされてない?大丈夫?」
スニーカーを脱いだ夕人はバケットハットを頭から取ると、「…なわけないだろ、抜かり無いよ」と少し馬鹿馬鹿しそうに笑った。
速生のふりに付き合うなんて,珍しく。
「ーーーえ、重っ。これ、何入ってんの?」
速生がキャリーケースを持ち上げて驚く。
「とりあえずキッチンに運んでくれる?」
「仰せのままに、お姫様」
速生の1DKアパートの、こぢんまりしたキッチン。
男一人暮らしにしては綺麗に使われていて、シンク下の収納やコンロ周りには、塩、胡椒、きび砂糖が置かれ、醤油、料理酒、粉末顆粒だしなどの料理に使える調味料が常備されている。
1人でも日頃から何かしら料理をして、きちんと食べているんだろうなと感じられる。
「ちゃんと自炊してんの、本当えらいよな。
顆粒だしとか、料理酒なんて…俺正直見ることもないよ」
水周りを見渡して夕人は感心する。
いつもコンビニやスーパーで買ってきたもので3食を適当に済ませてしまいがちな夕人の、広々としたほとんど汚れてもいないマンションのあのキッチンとは大違いだな、と思う。
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チャーハンとか焼きそばとか…
冷蔵庫の中の余り全部ごちゃ混ぜで炒めた野菜炒めとか。」
「へぇ…なんか、男料理って感じだな。それでもすごいよ」
珍しく夕人に褒められて、速生は照れくさそうにへへ、とはにかんで見せる。
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