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23歳・立秋 ー混ざり合い、重なるー
1.日常に加わるリフレイン着信(コール) -2-
しおりを挟む「ーーー…もしもし、速生?どうした?」
『…夕人ぉ…ーーー………ぃたい……』
通話口の向こうから聞こえる、つらく消え入りそうな速生の声に夕人は驚く。
「えっ⁉︎……痛い⁉︎
な、何かあったのかよ!?」
『夕人おおおぉぉ……会いたいんだよぉっ‼︎』
「ーーーーー……はぃ??」
思わず間抜けな声が出てしまう夕人。
「は、速生、お前……用件、それだけ…?」
『それだけってことないだろぉ!?
夕人、なんで朝メッセージくれなかったんだよぉ…返信無いし心配するじゃん……。
もしかして何かあったのかと、もう俺は気が気じゃなくて朝から仕事どころじゃ…』
ーーーそれだけのために仕事中に着信履歴17件残すって、どこのメンヘラ彼女だよお前は……?
「いや……朝はちょっと寝坊しかけてさ…送る暇なかったんだよ、ごめんって」
素直に謝る夕人。
二人の間で、毎朝のモーニングコールならぬメッセージ送信が習慣化していた。
初めは低血圧で朝に弱い夕人が、寝坊していないかどうかの確認に速生から送り始めた朝のメッセージ。
学生時代と一見同じに見えるその二人のやりとりは、今では毎朝の”愛の確認作業”へと変わっていた。
速生からのメッセージ画面には、
“夕人起きてる?”
“夕人好きだよ”
“夕人会いたいよ”
この3つの言葉がエンドレスで表示され続けていた。
『俺たち、1週間も会えてないんだぜ?もう限界……。
夕人が足りない……もう無理……チャージして…』
二人が感動の再会を果たしてから1ヶ月。
ただでさえ本業の教職にあわせてコンクール出展、それに加えてマンションオーナーへ月1回贈らなければならない油彩画の製作……。
多忙を極める夕人に、速生と二人きりでゆっくりする時間を作ることはなかなか容易ではなかった。
「いや、チャージって…どうやって。
ーーてか、速生おまえ、いま仕事中なんじゃないの?」
『いま営業車で外回り中。昼休憩の時間だし電話くらい余裕だよ。
なーなー、ちょっとビデオ通話にしてよ、夕人の顔見たい……』
「なっ…!無理に決まってんだろバカ!
……こっちは今どこにいると思ってんだよ」
周りをきょろきょろ見渡して、動揺する夕人に、ケチぃ…と唸り声を出す速生。
口を尖らせている速生の顔が見えてくるようだ。
『もうさぁ…仕事なんてどうでもいいよ。
夕人、今から高校に迎えに行こうか?二人でどこか行っちゃう?愛の逃避行しちゃう?』
「ばっバカ!だから、いい加減に……」
速生の方も、勤務先が大手文具メーカーなだけあってかその仕事量は計り知れず、取引先との細かい打合せや付き合いにしょっちゅう駆り出され、私用携帯へのコールが鳴り止まない日々。
せっかく二人きりで会える貴重な時間を作れても、ゆっくりと過ごせたことは殆ど無く、いつも何かしら邪魔が入ってしまい少し顔を合わせ話しただけで終わってしまう時間に、やきもきしていた。
『わかったよ………。
じゃあ…“好き”って言ってくれたら切る。』
「……はっ??なっ、お、お前、だからここどこだと…」
速生は思い、念じる。
“あれほど想いを確かめ合ったとは言え、こんなにもすれ違いの続く生活では、心が保たない。毎日一時も離れたくないくらいなのに、このままでは不安で死んでしまいそうだ。
でも………”
『夕人。俺のこと好き?』
「~~~~~………っ」
『おれのこと、す、き?
はい、答えて?』
”この不安な気持ちはどこからくるか知ってる?
ーーそう。夕人が俺に与えた5年間の放置プレイのせいだよ?わかってる?”
そんな重くて長ーーい声が聞こえてくるような、速生の愛の再確認。テレパシーでも送ってるのではと思うほど、はっきりと。
夕人は考える。
ーーーこのやりとり、いつまで続くんだろう…。
もしかして一生?
………なんか、その内生気吸い取られて早死にしそうだわ。
ここは、とりあえず穏便に済ませるためにも、言うしかない。
「す………っ…
す、き………」
その時。突然後ろからポンっと肩を叩かれる。
「夕人先生?昼休み終わりますよ~~?」
「!!!すっ、すき焼きで!じゃよろしく!」
教頭先生の満面の笑みに、肩を震わせた夕人は思わず叫んで、スマホの画面の通話終了ボタンをタップした。
「……すき焼き?今夜のおかずですか?
はは~ん、さては夕人先生、コレですね?
隅に置けませんなぁ~~。」
教頭はニヤニヤしながら小指を立てて、“彼女でしょ?”とやって見せた。
夕人は何事もなかったかのような顔で答えて見せる。
「ーーーいえ?母ですけど?」
夕人のその何事もなかったかのような涼しい顔に、「あっ……。そう……?」と教頭は気まずそうに目を逸らした。
なかなかの演技派になりつつある。
ーーー俺の処世術もここまで来れば完璧かも。
あとは……
速生との時間をどうやって作るかだな…。
そう考えながら、静かになってしまったスマホの液晶画面を恐る恐る眺めた。
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