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Ⅲ◆23歳・夏至 ー邂逅ー
5.これまで、そして、これから
しおりを挟むーーー…
「ーーごめんな。こんな早く帰させることになって……」
速生がとても悲しそうに夕人の顔を見て言う。
担当する取引先のトラブルで電話がかかり急遽仕事に出ないといけなくなった速生は、急いで着替えたワイシャツにネクタイを通す。
「大丈夫だよ。
俺も家帰って、次にコンクールに出す絵の続きとかしたいし……」
ーーー家に帰ったらすぐにシャワー浴びよう。
ここにいるとなんかずっとお風呂入らせてもらえなさそうだ………
そんなことを考えながら、夕人は、脱衣所のドラム式洗濯機の中、乾燥の終わった自分の服を取り出した。
「ーー乾燥機あるなら、早く言えよな?
いざとなった時やっぱり便利だよな」
「だって………そんなの言ったら、”さっさと俺の服乾燥機かけろよ!”とか言って、スウェット脱いでさっさと帰りそうじゃん、夕人……」
ーーーよくわかってんじゃん、と思いながら、夕人はまだ少し乾燥機の温もりの残る自分の服に着替える。
貸してもらっていたスウェットを畳んで「ありがとう」と手渡すと、
「……じゃ、これ、俺専用にして。ーーーまた、泊まりに来た時用」
そう自分で言って、少し頬を赤らめて俯く。
「~~~~~………あーもうっ!夕人のバカっ!
仕事行けないじゃねぇか!」
速生はそう言って、夕人の頬にキスしようとする。
「もう、そういうことしてると終わりが見えないから!いい加減にしろよな!」
「夕人が可愛いこと言うからじゃん……。
ーーーああ…このスウェット洗わないでおこうかな、夕人の匂いたくさんつけてもらって俺の眠りのお供に…」
「そういう変態なこと言うならもう来ないからな?
……あっ、そうだ」
ふと、自分の荷物に目をやる。
ショルダーバッグの中の紙袋の存在を思い出した。
「速生、口開けて」
えっ?と振り向いた速生の口の中に、むぎゅ、と押し込まれた……瀬戸がお土産と言って買ってくれたクロワッサン。
「頂き物なんだけど……悪くなっちゃうから。」
そう言って夕人も、もう一つのクロワッサンを一口齧る。「甘っ……」と言いながら、もぐもぐと口を動かす。
正直こういうスイーツ系にもほとんど興味はなく、本来なら滅多に口にすることはない夕人でも、瀬戸の好意を無碍にするのは心が引けたため…きちんと味わって、クロワッサンを完食した。
「うまいなこれ……。
誰にもらったの?」
「ーーーーナイショ」
今瀬戸の名前を出すとなんだかややこしくなりそうな気がした。
嫉妬深く独占欲強めの速生の性格。それは5年前のあの頃に比べてもっと激しくなってそうな…そんな予感に少し恐怖しつつ。
ーーー束縛どころか、そのうち軟禁状態にでもされそうだ。怖い怖い………。
「ーーーなぁ、夕人。
次は、一緒に食事しような。
………ちゃんと、向かい合って。
夕人の食べてるところもっと、ちゃんと見たいから」
穏やかな気持ちで、大好きな夕人の、どんな仕草、表情、話し声もすべて見逃す事なく、その目に焼き付けたい。
「うんーーー…。
じゃあ、昨日のあの小料理店がいいな。またさ、親父さんに言ってテーブル席予約しといてよ」
「ーーーあそこに行ったら、ボトルキープしてる芋焼酎また飲まないといけないけど大丈夫?」
「げっ……やっぱり、無理かも……」
青ざめる夕人に、速生は”ははっ”と笑った。
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